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海流異動
かいりゅういどう
作品ID62686
副題怪奇シリーズその8
かいきシリーズそのはち
原題Shifting Seas
著者ワインバウム スタンリー・G
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1937年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2024-10-29 / 2024-10-26
長さの目安約 42 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 あとで分かったことだが、テッド・ウェリングは大惨事の数少ない目撃者、いやむしろ150万目撃者の中で、生き残った6人のうちの1人だった。そのときは災害規模がよく分からなかったけれども、心底最悪に見えた。
 いまコーキスト号の機上にあり、ニカラグア湖が茶色の水をサンファン川へ流し込む地点のちょうど北に位置し、行先はマナグア、つまりニカラグア湖の120[#挿絵]北西だ。機体下からは、エンジンのくぐもったブンブン音に加え、間欠的に3次元俯瞰カメラのカシャカシャ音が聞こえ、機体速度に合わせて、通過地形の正確な立体地図を造れるようになっている。
 実際それが唯一の飛行目的であり、その日の早朝サンファンデルノーテを離陸して、計画中のニカラグア運河上空を縦断する米地質調査所・地形測量部の飛行である。
 もちろん米国は今世紀初頭からこのルートの権利を持っており、他国が野望を抱き、競合他社にパナマ運河の代替を開削させない担保にしている。
 しかし今はニカラグア運河の検討中である。ひしめくパナマ水路は益々増大する膨大な航行にうめき声を上げ、問題はもう1本海面下25[#挿絵]の巨大な溝を掘削するか、代替水路を開削するかとなった。
 ニカラグア水路は充分実現可能だ。サンファン川がニカラグア湖から大西洋にそそぎ、マナグア湖が太平洋から20[#挿絵]ほどの所にある。もう選定するだけであり、テッド・ウェリングは地質調査所の地形測量部に所属し、選定の手助けをしている。

[#挿絵]

 発生は正確に10時40分だった。朝霧を通してオメテペクの方をぼんやり眺めていると、円錐火山の頂上から黒い煙がもくもくと上がった。ニカラグア湖やマナグア湖から160[#挿絵]も離れており、オメテペク活火山は現在高度からよく見える。毎週オメテペク火山が雷鳴をとどろかし煙を吐いてることは知っていたが、見る間に、まるで強力なローマ花火のように噴火した。
 ぴかっと光った白炎は太陽に負けず劣らず明るかった。一筋の煙柱が赤い炎を芯にして、噴水のように吹き上がり、きのこ雲になった。一瞬の沈黙のなか、カメラが規則正しくカシャカシャ鳴っている。と、まさに地獄の蓋が吹き飛び、呪縛のふいごを破裂させたような轟音が聞こえた。
 びっくりだ。爆発音の到達があまりにも早すぎる。あの距離なら数分かかるはず。そのとき、否応なく考えを変えたのはコーキスト号が台風下の葉っぱのようにもみくちゃになったからだ。驚いて眼下の地形をちらと見ると、ニカラグア湖が波打ち沸騰するさまが、あたかもマゼラン海峡の荒海のようで、内陸湖水でないかのようだった。
 東岸に巨大な波が砕け、バナナ園にいた人影が驚き大慌てで逃げ去った。そしてその時まさに魔法のように、真っ白い霧が周りを包み、眼下の視界を完全にさえぎった。
 必死に高度と格闘した。高度900[#挿絵]だった…

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