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妙な子
みょうなこ
作品ID7914
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第二十九巻」 新日本出版社
1981(昭和56)年12月25日初版
初出「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
入力者柴田卓治
校正者土屋隆
公開 / 更新2009-04-07 / 2014-09-21
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 私は母からも又学課だけを教えて呉れる先生と云う人からも「妙な子」、「そだてにくいお子さん」と云われて居る。自分では何にも変なお子さんでも妙な子でもないつもりでもはたからそうして呉れるんでよけいにそうなったのかも知れない。私は母から見れば妙な子と云われてもしかたがない、って云う事は自ぼれのつよい自分でも知って居る。それは母って云う人は一体理性のかった人で(但し恐った時にどなり出すのはくせだけれど)可愛そうで泣きたいように私の思う事でも世の中にはたんとあるこったものと云う人であるに引きかえ、私は泣きたければすぐ泣く、笑いたければすぐ笑う。私の感情はすぐに顔や口振にあらわれて来る。だから母から見た私は妙な子なんである。人達の笑いながらしゃべって居る時に私は何かよんだものの中の主人公なんかを思って別に気もつかず悪気もなくって考えこんで居ると、いきなり私の母は私の体をゆすったり大きな声を出したりして私の思った事をめちゃめちゃにこわしておいて、別にあやまりもしないで私のかおを大穴のあくほど見て一人ごとのように「妙な子だよ」と云う。そんな時には私はきっしりと抱いて居たものを頭の上から手が出てうばって行ったようなぽかんとした気持になってしまう。
 私は人から妙な子と云われるのを格別苦労にも思わなければ又かなしいとも思わない。もしかすると妙な子と云われるのがほんとうなのかもしれない。まだ世の中のことを知ったようでまだ知りきれない半じゅく玉子のようなブヨブヨした私の心にはいろいろな不思議な事があり又不安心な事が大沢山ある。それがたぶん私の妙な子と云われるわけなんであろう。
 私の一番不思議で又知りたいのは、
  人間はなぜ生きて居なければいけないのか、死にたい時に勝手に死んでもよさそうなものだに。
と云う事である。その答として母の云ったことは、
「天職を全うするため」だと。
 又私はその天職ってものがどんな事が天職であり又神様の思っていらっしゃる天職であろう。天職と云って居るのは人間であるから若しや神様の思って居らっしゃる天職とはかけはなれた事を天職だと云ってやしないか。
 母の答はこうであった。
「女の天職と云えば立派な世の中に遺す事業のような事の出来るような子を産むのが女の天職である。なぜかと云うと神様の作った世界がほろびずに行くと云うのは女が子を産む事があるからで神様は自分の作った世界のほろびる事を望んで居られる筈はない。神の心を満足させるような神の望んで居られる仕事をするのがとりもなおさず天職である」
 そんならかたわでも馬鹿でもどしどし子さえうんでおけばそれでよいのか。若し世の中に事業をのこす事の出来る頭をもたない子を産んだらばその母は罪をおかしたものだと云われることが出来るかも知れない。
 一番おしまいに私に答えてくれた母の言葉は、
「そんな事は世の中の人がいくら…

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