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「享楽座」のぷろろぐ
「きょうらくざ」のぷろろぐ
作品ID854
著者辻 潤
文字遣い新字新仮名
底本 「辻潤著作集2 癡人の独語」 オリオン出版社
1970(昭和45)年1月30日
入力者et.vi.of nothing
校正者かとうかおり
公開 / 更新1999-11-20 / 2014-09-17
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




ダダはスピノザを夢見て
いつでも「鴨緑江節」を口吟んでいる
だから 白蛇姫に恋して
宿場女郎を抱くのである

浅草の塔が火の柱になって
その灰燼から生まれたのが
青臭い“La Variete d'Epicure”なのだ
万物流転の悲哀を背負って
タンバリンとカスタネットを鳴らす
紅と白粉の子等よ!
君達の靴下の穴を気にするな[#挿絵]
ひたすら「パンタライ」の呪文を唱えて
若き男達の唇と股とを祝福せよ
怪しくもいぶかしいボドビルが
そこから生まれ落ちるだろう

民衆芸術のワンタンを喰うな
月経に汚れたブルジョア娘の下着を羨むな
それはバビロニアの王者
サルダナパロスの唾棄するところだ
帝劇と有楽座を外濠に埋めて
新しい“Folly Variete”を建設しろ
かくて常に Pimp の如き
“Striking”の憧憬者 黒瀬春吉は
一夜立花家歌子の尿を飲む夢みて
「ヴリエテ」の妄想を創造した
この時 痴呆の如き色情狂者は
賢くも「○○」のカツレツを吐き出して
阿片の紫衣をまとい 王者の姿に扮して
享楽座の舞台に登場するのである
畢竟 彼の「市場価値」は
正に見物の好奇心と角逐するであろう
ボオルとブリキの「平和博」が
腐れ弁天の池に吸い込まれ
山師の懐中に雨もりがして
尻に帆を揚げる滑稽を演じても
遂にその芸術的価値に於て
わが「享楽座」の茶番には及ばないのだ

虚無の大象に跨がり 毒々しい紅百合を嗅ぐ
サルダナパロスよ!
しばらく月光の下に汝の従順なピエロオと戯れろ その時 汝の尺八は幼稚なトロイメライを奏でて 汝の胸の冷蔵庫に秘められたドス黒い心の臓に 真赤な旋律を
点火するであろう

絶望と倦怠との餌食――
酷薄な「生命」に虐なまれる傀儡は
僅かに刹那の火花から
トマトの肌触りを[#「肌触りを」は底本では「飢触りを」]感じるのだ
ヒステリイの山犬よ 石油の空缶を早く乱打しろ!
そして幕をあげろ!!
ハッシュ!! ハッショ[#挿絵]



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