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![]() きょうりゅうていのぼうけん |
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作品ID | 874 |
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著者 | 海野 十三 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「海野十三全集 第13巻 少年探偵長」 三一書房 1992(平成4)年2月29日 |
初出 | 「少年読物」別冊、1948(昭和23)年6月 |
入力者 | 海美 |
校正者 | もりみつじゅんじ |
公開 / 更新 | 2000-01-22 / 2014-09-17 |
長さの目安 | 約 23 ページ(500字/頁で計算) |
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二少年
みなさん、ジミー君とサム君とを、ご紹介いたします。
この二少年が、夏休みに、熱帯多島海へあそびに行って、そこでやってのけたすばらしい冒険は、きっとみなさんの気にいることでしょう。
さあ、その話をジミー君にはじめてもらいましょう。
おっと、みなさん。お忘れなく、ハンカチをもって、こっちへ集まってきて下さい。なぜって、みなさんはこの話を聞いているうちに、手の中にあつい汗をにぎったり、背中にねっとりと冷汗をにじみ出させたりするでしょうからねえ。いや、まだあります。おへそが汗をかくこともあるのですよ。
では、ジミー君。どうぞ……。
熱帯多島海へ! 夏休みほど、退屈なものはない。
わが友サムは、そのことについて、ぼくと同じ意見である。
いよいよ夏休みが、あと五週間ののちにせまったときに、サムとぼくは大戦慄をおぼえ、頭のかみの毛が一本一本ぴんと直立したほどである。
ぼくたち二人は、おそるべき夏休みの退屈からのがれるために、どんなことをしていいのか、それについて毎日協議した。
その結果、ぼくたちは、ついにすばらしい「考え」の尻尾をつかんだのである。それはいつもの夏休みとはちがい、こんどの夏休みには、思い切って、さびしいところへ行ってみよう。それには熱帯地方の多島海がいいだろうということになった。
熱帯地方の多島海のことは、学校で勉強して知っていた。やけつく強い日光。青い海。白い珊瑚。赤い屋根。緑の密林。七色の魚群。バナナ。パパイヤ。サワサップ。マンゴスチン。海ガメ。とかげ。わに。青黒い蛇(こんなものは、あんまり感心しないね)それからヤシの木。マングロープの木。ゴムの木。それからスコール。マラリヤ。デング熱のバイ菌。カヌーという丸木舟。火山。毒矢……ああ、いくらでもでてくる。が、このへんでやめておこう。
とにかくすばらしいではないか、熱帯地方の多島海は!
「よし、行こう」
「それできまった。行こう、行こう」
ぼくもサムも、語り合ったり、熱帯地理書のページをくったりしているうちに、すっかり熱帯多島海のとりこになってしまった。もう明日にも行きたくなった。
二人とも気が短い。夏休みはまだ四週間あまりたたないと来ないのである。
「ああ、夏休みになるまで、ずいぶん日があるよ。退屈だねえ」
「今年は暑いから、夏休みを一週間早くしてくれてもよさそうなもんだね」
サムも、ぼくも、好き勝手なことをいう。
が、出発の日まで、それほど退屈しないですんだ。というのは、熱帯地方で六十日をおもしろくあそぶためには、ぼくたちは、いろいろと用意をしておかなくてはならない仕事があったからだ。
そこでいよいよ夏休みの初日が来て、ぼくたち二人は、飛行艇にのりこんで出発した。ははははは、すばらしい冒険旅行の門出である。
飛行艇は、すばらしいね。「すばらしいね」と…