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透明猫
とうめいねこ
作品ID879
著者海野 十三
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 第13巻 少年探偵長」 三一書房
1992(平成4)年2月29日
初出「少年読物」1948(昭和23)年6月
入力者海美
校正者もりみつじゅんじ
公開 / 更新2000-01-22 / 2014-09-17
長さの目安約 21 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

   崖下の道

 いつも通りなれた崖下を歩いていた青二だった。
 崖の上にはいい住宅がならんでいた。赤い屋根の洋館もすくなくない。
 崖下の道の、崖と反対の方は、雑草のはえしげった低い堤が下の方へおちこんでいて、その向うに、まっ黒にこげた枕木利用の垣がある。その中にはレールがあって、汽車が走っている。
 青二は、この道を毎日のように往復する。それは放送局に働いている父親のために、夕食のべんとうをとどけるためだった。したがって、青二の通るのは夕方にかぎっていた。
 その日も青二は、べんとうを放送局の裏口の受付にとどけ、守衛の父親から鉛筆を一本おだちんにもらい、それをポケットにいれて、崖下の道を引っかえしていったのである。
 あたりはもう、うすぐらくなっていた。
 まだ春は浅く、そしてその日は曇っていて、西空に密雲がたれこみ、日が早く暮れかけていた。
 青二は、すきな歌を、かたっぱしから口笛で吹いて、いい気持で歩いていった。
 そのとき、道ばたで、「にゃーお」と、猫のなき声がした。
 青二は猫が大好きだった。この間まで、青二の家にもミイという猫がいたが、それは近所の犬の群れにかこまれて、むざんにもかみ殺されてしまった。青二はそのとき、わあわあと泣いたものだ。ミイが殺されてから、青二の家には猫がいない。
「にゃーお」また猫は、道ばたで鳴いた。崖下の草むらの中だった。
 青二は口笛を吹くのをやめて、猫の鳴き声のする方へ近づいた。
 が、猫の姿は見えなかった。どこへにげこんだのだろうと思っていると、また「にゃーお」と猫はないた。
 青二はぎくりとした。というのは、猫のないたのは彼が草むらの方へ顔をつきだしているそのすぐ鼻の先ともいっていいほどの近くだったからである。
 しかも、猫の姿は見えなかった。
 青二は、うしろへ身をひいて、顔色をかえた。ふしぎなこともあればあるものだ。たしかに猫のなき声がするのに姿が見えないのである。
「にゃーおん」猫はまたないた。青二は、ぶるっとふるえた。彼は、あることを思いついたのだ。
(これはひょっとすると、死んだミイのたましいがあらわれたのではないだろうか)
 死人のたましいが出てくる話は、いくどもきいたことがある。しかし死んだ猫のたましいが出てきた話は、あまりきいたことがなかった。でも、今はそうとしか考えようがないのだった。
「おいミイかい」
 青二は、思いきって、ふるえる声で、そういって、声をかけた。
「にゃーお」返事が、同じところからきこえた。
「あっ!」青二は、おどろきの声をあげて、その場にすくんでしまった。というわけは、彼はそのとき、草の上に二つの光るものがういているのを見つけたからである。
 それはなんだか、えたいの知れないものだった。ただぴかぴかと光って、行儀よく二つがならんでいた。大きさはラムネのガラス玉を四つ五つあわ…

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