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作品ID | 881 |
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著者 | 海野 十三 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「海野十三全集 第13巻 少年探偵長」 三一書房 1992(平成4)年2月29日 |
初出 | 「トップライト」1947(昭和22)年10月 |
入力者 | 海美 |
校正者 | もりみつじゅんじ |
公開 / 更新 | 2000-01-10 / 2014-09-17 |
長さの目安 | 約 7 ページ(500字/頁で計算) |
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人暦一万九百四十六年十三月九日
本日を以て地球は原子爆弾を惹起し、大爆発は二十三時間に亘って継続した後、地球は完全にガス状と化す。
尚、このガス状地球が、果して新星雲にまで発展し得るや、それとも宇宙塵として低迷するに過ぎざるや、目下のところ予報資料不足のため推定しがたい。
人暦一万八百年
地球は今や第五氷河期の惨禍より脱するに至った。
気候は殆んど正常に復した。
氷は北緯五十度まで、及び南緯五十度まで、蔽うに過ぎない。
植物は、第五氷河期襲来前の〇・五パーセントしか存在せず、而も衰弱の徴が著しく、漸次衰滅するものと思われる。
地球は今や金属の世界である。彼ら金属の智能と意志によって、絢爛たる新地球が建設されようとしている。地球は大工事によって形状を修整された上、公転の絆を断ち切って自由軌道を採用することになろう。
これらの大工事や自力運行のため、原子エネルギーの活用は幾何級数的に増大される。が、そこに或る種の危機を孕んでいるようである。
人暦九千百十一年
遂に第五氷河期が襲来!
月は遂に海水に触れ崩壊する。その破片と塵土は地球全面を蔽い、空は暗黒と化し、続いて気温降下が始まり、それは急激に降下して行き、地表は迅速に氷河期的景観に変わる。
植物の凍死するもの数知れず、世界の交通は杜絶し、秩序はもはや保たれなくなる。さしもの世界支配族たりし可動植物たちも、その生物的弱点により生存を脅されるに至り、殊に彼らの無反省な本能主義は、このような天災に対する用意を欠いていたので、第五氷河期の襲来は彼らにとって致命的打撃である。
尚、当時残存した約三千名の地球人類は行方不明となる。彼らの多くは、地底定住の努力半ばに於て、坑道内で死滅。
人暦八千百九十四年
支配当局の厳重なる取締と警戒にも拘らず、地球外に脱飛せる地球人類の総数は、この年に於て最大記録に達し、この一年間だけで九十五万五千余名と推定される。そして脱飛に成功せず、離陸以前に於て植物のため取押えられ処刑された者は、約四千四百万名に達する。
彼ら脱飛者たちの多くが目指すところは、龍骨座密集星図に属するスバル太陽系の七個の惑星であるが、彼らがこの宇宙移住に成功するためには最短路をとるとして約一千光年の距離を翔飛せねばならず、実際に目的地へ到達し得る者は全体の一パーセント程度であろう。
しかし地球人類としては、植物より受ける過酷なる圧迫による絶望と、第五氷河期襲来の予測とにより、危険を承知で、この最後の賭博に参加する外ない。
人暦六千五百五十年
世界の混乱は極度に達する。
混乱を生ずる因子は、何といっても内憂外患の激化にある。すなわち地球外の他の惑星からの侵入者は四千万に達し、これを防衛する地球植物と地球人類とは実力に於て常に不利なる立場にあり、而も地球植物、殊…