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予が見神の実験
よがけんしんのじっけん
作品ID902
著者綱島 梁川
文字遣い新字旧仮名
底本 「現代日本文學大系 96 文藝評論集」 筑摩書房
1973(昭和48)年7月10日
入力者j.utiyama
校正者Juki
公開 / 更新1999-02-19 / 2020-01-15
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

この篇は世の宗教的経験深き人に示さん為めにはあらずして唯だ心洵に神を求めて宗教的生活に入らんとする世の多くの友に薦めんとて也。

 予は今予みづからの見神の実験につきて語る所あらむとす。この事、予に於いては多少心苦しからざるに非ず。されど、予は今、世の常の自慮や、心配ひを一切打遺てて、出来るだけ忠実に、明確に、予が見たる所を語らでは已み難き一つの使命を有するを感ず。あながちに己が見証を将て世に吹聴せんとにはあらず、唯だ吾が鈍根劣機を以てして、尚ほ且つこの稀有の心証に与ることを得たる嬉しさ、忝けなさの抑へあへざると、且つは世の、心洵に神に憧れて未だその声を聴かざるもの、人知れず心の悩みに泣くもの、迷ふもの、煩ふるもの、一言すればすべて人生問題に蹉き傷きて惨痛の涙を味へるもの、凡そ是等一味の友にわが見得せる所を如実に分かち伝へんが為めに語らんとはするなり。あはれ、上天も見そなはせ、予は今この一個の貴き音づれを世に宣べんが為めに此処に立てり。
 わが見証をさながらに世に伝へんといふ。事や、もと至難なり。嗚呼吾れ一たび神を見てしより、おほけなくも此の一大事因縁を世に宣べ伝へんと願ふ心のみ、日ごとに強くなりゆきて、而かも如何にして之れを宣べ伝ふべきかの手段に至りては、放焉として闕けたり。如何にしてこの目的を達すべき。顧みれば、わが見証の意識の、超絶駭絶にして幽玄深奥なる、到底思議言説の以て加ふべきものなからむとす。人の世の言葉や、思想は、其の神秘的、具象的事相の万一をだに彷彿せしめがたき概あるにあらずや。吾れ之れを思うて、幾たびか躊躇し、幾たびか沮喪せり。而して今にして知りぬ、古人が自家見証につきて語る所の、毎々徒らに人をして五里霧中に彷徨せしむるの感ある所以を。彼等が心血を瀝尽して其の見証の内容を説くや、時に発して煌煌たる日星の大文章をなすことあれど、而かも其の辞愈[#挿絵]繁くして、指す方のいよ/\天上の月を離るゝが如き観あるは如何にぞや。彼等が悟を説くや、到底城見物の案内者が、人を導きて城の外濠内濠をのみ果てしなく廻り廻りて、竟に其の本丸に到らずして已める趣きあるなり。古人にして然り、今所証の浅き予にして悟を説かんとす、説く所或は其の一膜を剥ぎ、更に其の一膜を剥ぎ、かくして永久竟に人をして其の核心に達せざらしめんことを虞る。されば、予は竟にこの一事を抛たざるべからざる乎。否、否。神はわが枯槁の残生に意味あらせんとて、特にこの所証を予に附与したまへるにあらずや。この所証を幾分にても世に宣べ伝ふるは、吾が貴き一分の使命の存する所にあらずや。げにや、悟といひ見証といふもの、所詮は言説の伝へ得べき限りにあらざるべし。しかはあれど、わが満心の自覚を一揮直抒の筆に附して、尚ほ能く其の駭絶の意識の、黝然たる光の穂末をだに伝へ得ざる乎、その微かなる香気をだにほのめかし得ざる乎。…

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