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![]() あめふりぼうず |
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作品ID | 914 |
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著者 | 香倶土 三鳥 Ⓦ / 夢野 久作 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「夢野久作全集1」 ちくま文庫、筑摩書房 1992(平成4)年5月22日 |
初出 | 「九州日報」1925(大正14)年9月 |
入力者 | 柴田卓治 |
校正者 | もりみつじゅんじ |
公開 / 更新 | 2000-04-04 / 2014-09-17 |
長さの目安 | 約 4 ページ(500字/頁で計算) |
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お天気が続いて、どこの田圃も水が乾上がりました。
太郎のお父さんも百姓でしたが、自分の田の稲が枯れそうになりましたので、毎日毎日外に出て、空ばかり見て心配をしておりました。
太郎は学校から帰って来まして鞄をかたづけるとすぐに、
「お父さんは」
と尋ねました。
お母さんは洗濯をしながら、
「稲が枯れそうだから田を見に行っていらっしゃるのだよ」
と悲しそうに云われました。
太郎はすぐに表に飛び出して田の処に行って見ると、お父さんが心配そうに空を見て立っておいでになりました。
「お父さん、お父さん。雨が降らないから心配してらっしゃるの」
と太郎はうしろから走り寄って行きました。
「ウン。どっちの空を見ても雲は一つも無い。困ったことだ」
とお父さんはふりかえりながら言って、口に啣えたきせるから煙をプカプカ吹かされました。
「僕が雨をふらして上げましょうか」
と太郎はお父さんの顔を見上げながら、まじめくさってこう云いました。
「アハハハ。馬鹿な事を云うな。お前の力で雨がふるものか」
とお父さんは腹を抱えて笑われました。
「でもお父さん」
と太郎は一生懸命になって云いました。
「この間、運動会の前の日まで雨が降っていたでしょう。それに僕がテルテル坊主を作ったら、いいお天気になったでしょう」
「ウン」
「あの時みんなが大変喜びましたから、僕のテルテル坊主がお天気にしたんだって云ったら、皆えらいなあって云いましたよ」
「アハハハハ。そうか。テルテル坊主はお前の云うことをそんなによくきくのか」
「ききますとも。ですから今度は雨ふり坊主を作って、僕が雨を降らせるように頼もうと思うんです」
「アハハハハ。そりゃあみんなよろこぶだろう。やってみろ。雨がふったら御褒美をやるぞ」
「僕はいりませんから、雨降り坊主にやって下さい」
太郎はすぐに半紙を一枚持って来て、平仮名でこんなことを書きました。
「テルテル坊主テル坊主
天気にするのが上手なら
雨ふらすのも上手だろ
田圃がみんな乾上って
稲がすっかり枯れてゆく
雨をふらしてくれないか
僕の父さん母さんも
ほかの百姓さんたちも
どんなに喜ぶことだろう
もしも降らせぬそのときは
嘘つきぼうずと名を書いて
猫のオモチャにしてしまう
それがいやなら明日から
ドッサリ雨をふらせろよ
褒美にお酒をかけてやる
雨ふり坊主フリ坊主
田圃もお池も一パイに
ドッサリ雨をふらせろよ」
太郎はその手紙を丸めて坊主の頭にして、紙の着物を着せて、裏木戸の萩の枝に結びつけておきました。
その晩、太郎の家で親子三人が寝ていると、夜中から稲妻がピカピカ光って雷が鳴り出したと思うと、たちまち天が引っくり返ったと思うくらいの大雨がふり出しました。
「ヤア、僕の雨ふり坊主が本当に雨をふらした」
と太郎…