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オシャベリ姫
オシャベリひめ
作品ID932
著者かぐつち みどり / 夢野 久作
文字遣い新字新仮名
底本 「夢野久作全集1」 ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年5月22日
初出「九州日報」1925(大正14)年9~10月
入力者柴田卓治
校正者江村秀之
公開 / 更新2000-05-17 / 2014-09-17
長さの目安約 51 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある国に王様がありまして、夫婦の間にたった一人、オシャベリ姫というお姫さまがありました。
 このお姫様は大層美しいお姫様でしたが、どうしたものか生れ付きおしゃべりで、朝から晩まで何かしらシャベッていないと気もちがわるいので、おまけにそれを又きいてやる人がいないと大層御機嫌がわるいのです。
 ある朝のこと、このオシャベリ姫は眼をさまして顔を洗うと、すぐに両親の王様とお妃様の処に飛んで来て、もうおしゃべりを初めました。
「お父様お母様、昨夜は大変でしたのよ。ゆうべあたしがひとりで寝ていますと、どこから這入って来たのか、一人の黒ん坊が寝床のところへ来まして、妾の胸に短刀をつきつけて、宝物のあるところはどこだと、こわい顔をしてきくのです」
「まあ、それからどうしたの」
 と王様とお妃様はビックリして姫にお尋ねになりました。
「それからね……妾はしかたがありませんから、宝物の庫のところへ連れて行ったら、黒い腕で錠前を引き切って中の宝物をすっかり運び出して、お城の外へ持って行ってしまったのですよ」
「なぜその時にお前は大きな声で呼ばなかった」
「だって、その宝物をみんな妾に持たせて運ばせながら、黒ん坊は短刀を持ってそばに付いているのですもの」
「フーム。それは大変だ。すぐに兵隊に追っかけさせなくては。しかしお前はそれからどうした」
「やっとそれが済んだら、黒ん坊は妾の胸に又短刀をつきつけて今度は、オレのお嫁になれって云うんですの」
「エーッ。それでお前はどうした」
「あたしはどうしようかと思っていましたら……眼がさめちゃったの」
「何……どうしたと」
「それがすっかり夢なのですよ」
「馬鹿……この馬鹿姫め。夢なら夢となぜ早く云わないのか」
 と王様は大層腹をお立てになりました。
「まあ。それでも夢でよかった。あたし、どんなに心配したかしれない」
 とお妃さまもほっとため息をつきました。
「オホホホホホ。まあ、おききなさい。それからね、わたしは眼をさまして見ますと、まだ夜が明けないで真暗なんでしょう。あたしは何だか本当に黒ん坊が来そうになってこわくなりましたから、ソッと起き上って次の間の女中の寝ているところへ来て見ますと、二人いた女中が二人ともいないのです」
「憎い奴だ。お前の番をする役目なのにどこに行っていたのであろう。非道い眼に合わせてやらなくてはならぬ」
 と王様は又も大層腹をお立てになりました。
「それがねえ、お父様。お叱りになってはいけないのですよ。妾もどこに行ったろうと思って探して見ると、二人とも機織り部屋に行って糸を紡いでいるのです」
「何、糸を?」
 とお妃さまが云われました。
「感心だねえ。夜も寝ないで糸を紡いでいるのかえ」
「それがまだ感心することがあるのですよ……」
 オシャベリ姫はなおも前のお話をつづけました。
「あたしは、二人の女中が今頃何だっ…

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