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断橋奇聞
だんきょうきぶん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「中国の怪談(一)」 河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年5月6日
入力者Hiroshi_O
校正者noriko saito
公開 / 更新2005-01-13 / 2014-09-18
長さの目安約 25 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 杭州の西湖へ往って宝叔塔の在る宝石山の麓、日本領事館の下の方から湖の中に通じた一条の長[#挿絵]を通って孤山に遊んだ者は、その長[#挿絵]の中にある二つの石橋を渡って往く。石橋の一つは断橋で、一つは錦帯橋であるが、この物語に関係のあるのは、その第一橋で、そこには聖祖帝の筆になった有名な断橋残雪の碑がある。

 元の至正年間のこと、姑蘇、即ち今の蘇州に文世高という秀才があったが、元朝では儒者を軽んじて重用しないので、気概のある者は山林に隠れるか、詞曲に遊ぶかして、官海に入ることを好まないふうがあった。世高もその風習に感化せられて、功名の念がすくなく、詩酒の情が濃かであった。
 その時世高は二十歳を過ぎたばかりであったが、佳麗な西湖の風景を慕うて、杭州へ来て銭塘門の外になった昭慶寺の前へ家を借りて住み、朝夕湖畔を逍遥していた。ある日往くともなしに足に信せて断橋へ往ったところで、左側に竹林があってその内から高い門が見えていた。近くへ往って見るとその門には喬木世家という[#挿絵]をかけてあった。
 世高は物好きにどんな庭園であるか、それを見てやろうと思って入って往った。槐と竹とが青々した陰を作った処に池があって、紅白の蓮の花がいちめんに咲いており、その花の匂いがほんのり四辺に漂うているように思われた。世高はその庭の景致がひどく気に入ったので、池の縁に立って佳い気もちになっていた。
「おや、綺麗な方だわ」
 若い女のすこしはすっぱに聞える無邪気な声が不意に聞えてきた。世高の眼はすぐ声のしたと思われる方へ往った。池の左、そこにある台[#挿絵]の東隣となった緑陰の中に小さな楼が見えて、白い小さな女の顔があった。それは綺麗な眼のさめるような少女であった。
 世高は女のほうをじっと見た。そうした少女から己れの容姿を見とめられて、多感な少年がどうして平気でいられよう。彼は吸い寄せられるようにその方へ往きかけたが、ふと考えたことがあったので引返して門の外へ出た。それはその少女の素性を訊くがためであった。
 花粉や花簪児を売っている化粧品店がそのちかくにあった。そこには一人の老婆がいて店頭に腰をかけていた。世高はそこへ入って往った。
「すみませんが、すこし休ましてくれませんか」
 老婆は気軽く承知した。
「さあさあ、どうぞ、だが、あげるような佳いお茶がありませんよ」
 世高は老婆の信実のある詞が嬉しかった。彼は老婆に挨拶して腰をかけながら言った。
「お婆さんは、何姓ですか」
「今は施姓ですが、母方のほうは李姓ですよ、所天が没くなってから十年になりますが、男の子がないものだから、今にこうしております。私の所天の排行が十に当るから、人が私を施十娘というのですよ、あなたは」
「私は姑蘇の者で、文というのです、この西湖の山水を見にきて遊んでいるのですよ」
「では、あなたは風流の方ですね」…

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