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台湾の姿態
たいわんのしたい
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」 未来社
1967(昭和42)年11月10日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2006-06-27 / 2014-09-18
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 台湾の印象は、まず山と川から来る。比類ない断崖と深潭と高峯とを以て成るタコロ峡のことは、ここに云うまい。また、蘇澳から花蓮港に至る間の海岸絶壁を縫うバス道のことも、ここに云うまい。それらは余りに有名だからである。然し、台湾東部の山と川はすべて、一般に強い印象を与える。
 台湾には、一万尺を越える高山が主峯だけでも四十八ある。それらの峯は大体、岩層と風化との関係で、西方が削ぎ取られて、謂わば西天に向って屹立している。然しそれらの峯を載せた中央山脈は、東海岸寄りに連っていて、東側に於て急峻であり、随って、東側に於て谿谷も深い。狭い平地に独立してる山々も、みな急峻である。
 それらの山々は、麓と中腹と頂とが、同時に人に迫ってくる。山というものは、普通、人がそれに向って進む時、麓や中腹は次第に人に迫ってくるが、頂は後方に逃げてゆくものだ。頂上は捉え難く、裾だけが捉え易い。然し台湾東部の山々はそうでなく、麓や中腹と共に、頂までがじかに人に迫ってくる。寧ろ頂が真先に人に迫ってくる。
 花蓮港の付近を散歩する時、このことが最もよく感ぜられる。それらの山々は、裾から頂上まで、密林の濃緑をまとって、頂から真先に人にじかに迫ってくる。否、一歩戸外に踏み出すや否や、山々はそういう姿勢で其処に在る。海岸沿いに舟をやれば、天空から山の頂が威圧してくる。東部の山々は大体、そういう姿勢を多少とも取っている。
 それらの山に伴って、また特殊な河川がある。花蓮港庁や台東庁の地図を見れば、無数の細長い湖水があるのに驚かされる。だが、それらの水色の湖水は、現実には単なる河床に過ぎない。或はごろた石の、或は砂利や砂の、広い河床であって、雑草が茂り、自由耕作がなされてる部分もある。それが、大雨に及ぶと、山水が一時に注ぎこんできて、全面的に河となる。山裾から山裾への谷間――狭い平地――を全面的に蔽いつくす河流となる。そしてまた暫くして、元の河床に復帰する。台湾の多くの河は、何々河と称せず、何々溪と称するが、言葉の起源は別として、この溪という語感は東部の河にぴたりとあてはまる。大きな河としては殆んど唯一の呼称たる淡水河が、河の語感によく妥当するのと同様である。
 東部のそれらの山と溪とに、私は台湾の熱情を見る。地上の自然界の熱情である。これに比ぶれば、天然樟樹の森も、椰子の林も、蘇鉄ばかりの山も、見渡す限りの甘蔗畑も、甚だ微弱なものと云わねばならない。熱帯と亜熱帯とに亘る本島の炎暑も、さほどのものではない。
 溪の水量の激変は大なる熱情の変動を思わせるが、温度の変化は熱情的というよりも寧ろ病的である。台湾の気候は大体、北部と南部とでは、その雨期と乾燥期との時期に於て対蹠的であるが、その変化目の――例えば四月頃の気候は、病的というの外はない。冬服の気温から単衣一枚の気温に至る間を、幾度も往復する。日によ…

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