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北支点描
ほくしてんびょう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」 未来社
1967(昭和42)年11月10日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2006-06-27 / 2014-09-18
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 青島水族館は全く名ばかりのちっぽけなものであるが、ここの硝子の水槽のなかに、ウマヅラハギというおかしな魚が一匹いる。長さ二十センチあまりのものだが、長めの菱形で、頭が見ようによっては馬の横顔に似ている。こいつが身体も尾鰭もしゃちこばらして、頭を上に尾を下に縦に浮いて、じっと天の一角を眺めている。いつまでもじっとして大真面目でいるので、見ているとこちらが可笑しくなる。北京の中央公園で飼育されてるさまざまの奇怪豪華な金魚も、この一匹のウマヅラハギの姿態には及ばない。
 北京の北海公園には、[#挿絵]という一本の木がある。山東の山にいくらもある木だそうだが、白樺の幹に松の枝葉をくっつけたもので、如何にもふざけている。白い幹に緑の針葉でつっ立って威張ってるので、見ていると、人をばかにするなと云ってやりたくなる。この木の下にウマヅラハギを泳がしてみたら、面白かろう。
      *
 青島の救済院には多くの孤児が収容されている。この救済院の囲壁に、小さな穴があいていて、夜になるとそこで、院内の室から往来へ箱の口が開かれる。箱の中に子供の泣声がすると、室内の者がこれを聞きつけ、箱をひっこめ、中から子供を取出して、それを院に収容する。この仕方によって、捨児する者は人に顔を見られることなくして、児を救済院に委託することが出来る。人情を加味した合理的な処置であろう。
 モダーンなハイカラな青島の都市にも、捨児をする者や貰子をする者がいくらもあるそうである。
      *
 支那の一般大衆は概して、幼時には相貌が美しく、長ずるに従って人相が悪くなる、という定評である。女はこれが殊に甚だしく、十七八歳までの美人は頗る多いが、二十歳を越す頃からとたんにお婆さんになり、所謂年増美とか姥桜とかは全くないと云われる。然し例外がないでもない。
 青島の平庚五里は遊里であるが、ここの或る房の芸妓の、或は母親ともいい或は阿媽ともいうのが、良人の死後長く独身でいる四十歳をすぎた美人である。
 平庚五里は特殊な大建築で、広い中庭をかこんで廻廊があり、廻廊に面して小房がずらりと並んでいる。二階から上のそれらの小房が遊女たちの室である。最上階の六階が最も高等なものとされ、ここにいるのは娼妓というよりも寧ろ芸妓であろう。客があれば鈴が鳴らされ、その階の二三十人の美女たちが、料亭に呼ばれて少数を除いた全部、客の前に立並んでその選択を待つ。選ばれた女は客を小房に案内して、お茶を供し談笑する。鈴が鳴ればまた駆け出していって、新たな客を他の房に案内する。客は茶をすすり水瓜の種をかじりながら、一時頃までも気長にぼんやりしている。この小房の一つで雑役をしている前記の女が、四十すぎた例外の美人で、水のしたたるようなその色っぽさは、そこの年若い芸妓のいずれを持ってきても足許にも及ばない。
 北京の前門外の暢園茶社に…

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