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曽我の暴れん坊
そがのあばれんぼう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「坂口安吾全集 14」 筑摩書房
1999(平成11)年6月20日
初出「キング 第三〇巻第六号」1954(昭和29)年5月1日
入力者tatsuki
校正者noriko saito
公開 / 更新2009-05-10 / 2014-09-21
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     出家の代り元服して勘当のこと

 ある朝、曾我の太郎が庭へでてみると、大切にしている桜の若木がスッポリ切られている。
「何者のイタズラかな」
 しかし切口を見ると、おどろいた。直径二寸五分ほどもある幹を一刀両断にしたもの、実に見事な切口。凡手の業ではない。しかし、かほど腕のたつ大人がこんなイタズラはしそうもない。イタズラしそうな奴といえば女房の連れ子箱王ぐらいのものだが、奴め剣術の稽古は無類に好きとはいえ、まだ十一の子供。
「コレ、コレ、箱王。まさかキサマではあるまいな、この桜を切ったのは」
「イイエ。ボクです。工藤祐経に見えたので、うっかり切ってしまいました」
「ウーム。見事な腕前。驚き入った」
「怒らないのですか」
 ワシントンとちがって、親父の怒るのをサイソクしている。もし怒ったら親父を相手に一勝負、これぞ望むところという不敵な料簡が顔にアリアリ現れている。豪胆な奴だと太郎は舌をまいて部屋へ入ったが、これを垣間見ておどろき悲んだのは母親の満江。
 前夫河津三郎が祐経に殺されたので曾我の太郎と再婚したが、一万箱王の二子(後の十郎五郎)は敵の大将の孫というので頼朝に殺されるところを畠山重忠の口添えで辛くも命を助けてもらった。祐経を父の仇と剣の稽古に励んでいるなぞと人の口の端に上るようになれば、こんどこそ命がない。
「おそろしい子供……」
 兄の一万は学問好きで柔和だが、弟の箱王は無類の暴れん坊。手がつけられない。うっかりすると、この子のために再び鎌倉へ召し出されるハメになり、兄の一万も義父の曾我もともに成敗をうけるようなことになりかねない。これはもう坊主にでもしてしまうのが何よりと考えたから、箱根の別当へ預け、ゆくゆくは坊主にすることにした。
 ここには二十何人も坊主がいる。箱王、朝の勤めがすむと山へもぐりこんで一日中戻らない。この箱王という子供は肉が無性に好きなのである。オカユとナッパというような坊主の食物が我慢ができない。手製の弓矢をつくり、鳥獣をとらえて食い、山の石を押し倒して力を鍛えたり、木立を相手に立廻りの稽古に没頭したり、日が暮れるまで山で遊んでいる。先輩の坊主にこの乱行を見届けられて、
「キサマ、坊主の身でありながら、鳥獣を殺して食うとは何事だ」
「イエ、ありがたい経文を唱え、引導をわたして食べますから、成仏ができてありがたいと云って鳥獣がオナカの中で手をついて礼をのべております」
 箱根の別当はこれをきいて、子供のころの暴れん坊は大人になると案外大物になるものだ。将来見どころがあるようだから、ナニ、子供のうちは仕放題にやらせておけ、と笑ってすましてくれた。そのおかげで、箱王は十一から十七の年まで箱根山中でたらふく肉を食い大いに鍛錬して育つことができた。ついに身長六尺、力の底が知れないという怪童ができあがった。谷底へ大石を突き落す、…

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