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巷談師
こうだんし
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「坂口安吾全集 09」 筑摩書房
1998(平成10)年10月20日
初出「別冊文藝春秋 第一七号」1950(昭和25)年8月3日発行
入力者tatsuki
校正者花田泰治郎
公開 / 更新2006-05-17 / 2014-09-18
長さの目安約 23 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

「ヘタな小説が売れなくなって巷談師になったのか。お前の底は見えた。恥を知れ。
一共産党員」

 安吾巷談その三「野坂中尉と中西伍長」には全国の共産党員から夥しい反響があった。これも、その一つである。簡にして要を得、秀作である。
「お前の顔は……」このあとは、本人は書きたくない。私の顔に文句をつけるのは筋ちがいだが、「林芙美子との対談の愚劣さよ。両醜無断……」林さんにはお気の毒だが、こういうのもきた。両醜は簡潔。よく醜の字を知っている。あとの「無断」がわからない。しかし、一刀両断とか、言語道断とか、それに似てバッサリと斬り伏せる趣きは充分現れているから、文を学べば、一かどの文士になった人物かも知れない。
 共産党の手紙は、非常に短いか(ハガキで三行前後)非常に長いか(便箋十枚――二十枚ぐらい)いずれかである。
 弟子入り志望の手紙は共産党と同じぐらい長文で、返信切手や自分名宛の封筒を同封しておくという用心深いのが通例だが、時々、不足税をとられることもある。弟子入り志望に一匁分倹約するとは思われないが、長文の手紙となると、目測が狂うらしい。ところが、共産党の長文の手紙(十五通はもらった)はコンリンザイ不足税をとられたことがない。ぜひとも巷談師の目に必殺の文字をたたきこんでやろうという闘魂歴々たるものがある。
 弟子入りの手紙は、宛名に先生が三分の二ぐらい、三分の一ぐらいが様、まれに殿というのがある。様と殿の手紙には、先生とよぶのは変です、という意味の言葉が、くりかえし述べられているのが通例である。彼らの共通の感覚で、この感覚の内容は私にはよく分らないが、先生という呼称を空疎なもの、たとえば彼らと学校の先生との関係などをそれに当てはめ、私をもっと親密なものと解していることが察せられる。
 共産党は全部「殿」だ。しかし数通、この場合はハガキに限るが、殿も省いて呼びすてがあった。ハガキの作者はベランメー型で、筆で委曲がつくしがたいから、拳コの代りに呼びすてにして溜飲を下げているらしい。長文の手紙の作者は必殺の文字に自信があるから、悠々敬称をつけてくれる。
 長文の手紙に何が書いてあるかというと、私の作品(主として堕落論)の批評が主であるが、中には私の作品の半数ぐらい読んでいて、一々槍玉にあげているのもある。そして、前者(堕落論その他ごく一部分の作品をとりあげて縦横に論破したもの)はいくぶん冷静で、あくまで論理によって巷談師の息の根をとめようとする気品をうかごうことができるが、後者(半数以上の作品を槍玉にあげているもの)は一時あやまって私の作品を愛読したことがあり、はからざる裏切り行為に逆上、可愛さあまって憎さが百倍という噴火山的な気魄と焦躁が横溢しているが、末尾に至って突然怪しく冷静となり、貴様(又はお前)はやがて人民裁判によって裁かれるであろう、その日は近づいている…

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