えあ草紙・青空図書館 - 作品カード


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地方文化運動報告
ちほうぶんかうんどうほうこく
副題――尾道市図書館より――
――おのみちしとしょかんより――
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「論理とその実践――組織論から図書館像へ――」 てんびん社
1972(昭和47)年11月20日
初出「青年文化」1947(昭和22)年1月
入力者鈴木厚司
校正者宮元淳一
公開 / 更新2005-07-20 / 2014-09-18
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 終戦の混乱から広島県の東部地方がその身辺を整理しはじめたのは昨年の九月中旬頃からであった。図書館もその本を疎開先より帰し、館の汚れた窓ガラスを拭き終えたのは九月の末頃であった。これから疲れはてた青年達をして、この昏冥の意識の中から、立上らしめるきっかけを与えるには何うしたらよいであろうか。次から次に、マックアーサー司令部から与えられつつある自由を、真実の姿をもって、青年の魂の中に浸み込ませるには何うしたらいいんだろう。
 暗澹たる想い、というのはその時の私のいつわらざる心持であった。どこから、この尾道の一角に手をかけて行くべきであろうか。私のこころは暗かった。
 或る日、書庫の整理に書塵に白くなっていた時、一人の青年が黙々と長身を利して、高い書架の本を降ろしているのを発見した。
「君は誰だ」「広島高等学校のものです。本がすきだから手伝っているんです」と言った。私は彼をして働くままにまかせていた。幾日かの中に、彼が絵を描くことも判って来た。
「先生絵をもって来ましょうか」「うん、もって来い」彼は素人油絵を青年らしい率直な誇をもって持って来た。
「これを館長室にかけろ」実は書庫のボロ本を整理して、一つの部屋を作って、私達がそこを館長室と名を付けたばかりなところである。未だ明治時代のアセチレンのガス燈の管が十字架を逆さにした型で下っているこの部屋の壁に、彼はこの絵をかけたのである。私はこの稚拙な、しかし清純な絵を見ているうちに、何か胸たぎる想いが湧いて来た。
「ここに一人の青年が結集している。ここにすでに最小単位の文化運動が始まっている。」
 私は「ようし」と腹の底で呻ったのである。治安維持法は、十月四日に断ちきられた。私は、三日後、十月七日、そのスタートを切った。
 日曜日の朝九時(学生を対象とする)、水曜日の午後二時(一般婦人を対象とする)の二つの講演会、金曜日の午後一時よりの座談会を計画して実行に移した。人事と本の年間予算が二千八百円、私の年棒がタッタ百円の館では講師の経費は勿論出っこないから、終始独演ということになる。しかし、悲しい哉、聴衆はいつでも五人、十人である。三人位の聴衆に大きな声でやるのは淋しいというより実際悲しかった。例の広高生の槇田と、私の講義は出来る限り聴衆となろうとする七十七歳の私の母のほかは、外来聴衆はただ一人という時は、母の方が可哀そうに私を見ているらしいのには閉口した。しかし、むしろヒロイックになって、その時の私の講義の出来栄えは、自分でも相当満足すべきものと思うものがあった。
 館の横には太陽館という映画館がある。私の最も対象とした、帰還軍人、特攻クズレは白いマフラを巻いて群をなしてうろついている。それだのに私の講演は、閑古鳥が鳴きつづけた。その寒むざむとした思いは、今思い出しても腹の冷えるような思いであった。
 市は私の図書館…

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