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戯作者
げさくしゃ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「国枝史郎伝奇全集 巻五」 未知谷
1993(平成5)年7月20日
初出「サンデー毎日」1925(大正14)年4月1日春季特別号
入力者阿和泉拓
校正者湯地光弘
公開 / 更新2005-06-22 / 2014-09-18
長さの目安約 22 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

初対面
「あの、お客様でございますよ」
 女房のお菊が知らせて来た。
「へえ、何人だね? 蔦屋さんかえ?」
 京伝はひょいと眼を上げた。陽あたりのいい二階の書斎で、冬のことで炬燵がかけてある。
「見たこともないお侍様で、滝沢様とか仰有いましたよ。是非ともお眼にかかりたいんですって?」
「敵討ちじゃあるまいな。俺は殺される覚えはねえ。もっともこれ迄草双紙の上じゃ随分人も殺したが……」
「弟子入りしたいって云うんですよ」
「へえこの俺へ弟子入りかえ? 敵討ちよりなお悪いや」
「ではそう云って断わりましょうか?」
「と云う訳にも行かないだろう。かまうものか通しっちめえ」
 女房が引っ込むと引き違いに一人の武士が入って来た。大髻に黒紋付、年恰好は二十五六、筋肉逞しく大兵肥満、威圧するような風采である。小兵で痩せぎすで蒼白くて商人まる出しの京伝にとっては、どうでも苦手でなければならない。
「手前滝沢清左衛門、不束者にござりまするが何卒今後お見知り置かれ、別してご懇意にあずかりたく……」
「どうも不可え、固くるしいね。私にゃアどうにも太刀打ち出来ねえ。へいへいどうぞお心安くね。お尋ねにあずかりやした山東庵京伝、正に私でごぜえやす。とこうバラケンにゆきやしょう。アッハハハハどうでげすな?」
「これはこれはお手軽のご挨拶、かえって恐縮に存じます」
「どう致しまして、反対だ、恐縮するのは私の方で。……さて、お訪ねのご用の筋は? とこう一つゆきやしょうかな」
「は、その事でござりますが、手前戯作者志願でござって、ついては厚顔のお願いながら、ご門下の列に加わりたく……」
「へえ、そりゃア本当ですかい?」
「手前お上手は申しませぬ」
「それにしちゃア智慧がねえ……」
「え?」と武士は眼を見張る。
「何を、口が辷りやした。それにしても無分別ですね。見れば立派なお侍様、農工商の上に立つ仁だ。何を好んで幇間などに……」
「幇間?」と武士は不思議そうに、
「戯作者は幇間でござりましょうか?」
「人気商売でげすからな。幇間で悪くば先ず芸人。……」
 ツルリと京伝は頤を撫でる。自分で云ったその言葉がどうやら自分の気に入ったらしい。
「手前の考えは些違います」
「ハイハイお説はいずれその中ゆっくり拝聴致すとして、第二に戯作というこの商売、岡眼で見たほど楽でげえせん」
「いやその点は覚悟の前で……」
「ところで、これ迄文のようなものを作ったことでもござんすかえ?」
「はっ」と云うと侍は、つと懐中へ手を入れたが、取り出したのは綴じた紙である。
「見るにも耐えぬ拙作ながら、ほんの小手調べに綴りましたもの、ご迷惑でもござりましょうがお隙の際に一二枚ご閲読下さらば光栄の至。……」
「へえ、こいつア驚いた。いやどうも早手廻しで。ぜっぴ江戸ッ子はこうなくちゃならねえ。こいつア大きに気に入りやした。ははあ題して…

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