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二人町奴
ふたりまちやっこ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「国枝史郎伝奇全集 巻六」 未知谷
1993(平成5)年9月30日
初出「少年倶楽部」1927(昭和2)年4月
入力者阿和泉拓
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2005-10-08 / 2014-09-18
長さの目安約 20 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


「それ喧嘩だ」
「浪人組同志だ」
「あぶないあぶない、逃げろ逃げろ」
 ワーッ[#「ワーッ」は底本では「ワーツ」]と群衆なだれを打ち、一時に左右へ開いたが、遠巻きにして眺めている。
 浪人組の頭深見十左衛門、その子息の十三郎、これが一方の喧嘩頭、従うもの二三十人、いずれも武道鍛練の、度胸の据わった連中である。
 その相手は土岐与左衛門と、その一味の浪人組、その数およそ三四十人。
 おりから春、桜花の盛り、所は浅草観世音境内、その頃にあっても江戸一の盛り場、しかも真昼で人出多く、賑わいを極めている時であった。
「あいや土岐氏」と十三郎、ヌッ[#「ヌッ」は底本では「ヌツ」]とばかりに進み出た。
 年この時二十八歳、色白く美男である。その剣道は一刀流、免許の腕を備えている。
「過日我らが組下の一人、諸戸新吾と申す者、貴殿の部下たる矢部藤十殿に、鞘当てのことより意趣となり、双方果し合い致したるところ、卑怯にも矢部殿には数人を語らい、諸戸新吾を打ち挫き、恥辱を、与えなされたため、諸戸は無念を書き残し、数日前に腹切ってござる。以来我ら貴殿に対し、矢部殿お引き渡し下さるよう、再三使いをもって申し入れましたが、今になんのご返事もない。組下の恥辱は頭の恥辱、今日ここで偶然お目にかかった以上、貴殿を相手にこの十三郎単身お掛け合い致しとうござる。土岐氏、即座にお答え下され。さあ矢部殿を渡されるか? それともビッシリお断わりなさるか? 渡されるとあればそれでよい。当方にて十分成敗致す、渡されぬとあっては止むを得ぬ。貴殿と拙者この場において、尋常の勝負、抜き合わせましょう! いかがでござるな、さあ、ご返答!」
 凜とばかりに云い入れた。
「お気の毒ながらお断わりじゃ」
 こう云ったのは与左衛門。年の頃は四十五六、頬髯の濃い赤ら顔、上背があって立派である。
「いかにも我等組下の者矢部藤十儀、貴殿の組下、諸戸殿と果し合いは致しましたが、卑怯の振舞いは決して致さぬ。傍らに引き添った同僚が、仲間の誼み自分勝手に、助太刀の刀を揮った迄、これとて考えれば当然のこと、志合って組をつくり、一緒の行動とる以上、助け助けられるに不思議はござらぬ、矢部を渡さば成敗する。かよう云われる貴殿の言葉を、承知致したその上で、矢部を貴殿に渡したが最後、拙者の面目丸潰れじゃ。お断わりお断わり、決して渡さぬ!」
 これも立派に云い切った。
「なるほど」と云ったは十三郎、
「お言葉を聞けばごもっとも、よもやムザムザ矢部殿を、我々の手へはお渡しあるまい。止むを得ぬ儀、貴殿と拙者、ここで果し合い致しましょう」
「左様さ」と云ったが土岐与左衛門、承知するより仕方なかった。
「よろしゅうござる、お相手致そう」
 それから部下をジロリと見たが、
「これ貴殿方、助太刀無用、我ら二人だけで立ち会い致す。よろしいかな、お心得なされ」…

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