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ふらんすの女
ふらんすのおんな
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集19」 岩波書店
1989(平成元)年12月8日
初出「女性 第六巻第四号」1924(大正13)年10月1日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2009-11-07 / 2014-09-21
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

マダム用応接間にて

 ――あなた、旦那さんのどういふところに、一番感心してゐらつしやる?
 ――上手に嘘をつくところ。
 ――…………?
 ――あの人の嘘は、それや嘘らしくないの。だから、騙されてゐながら腹は立たないの。


或る日の朝

 ――出て行けつたら出て行け。
 ――出て行きますとも……後悔するんぢやありませんよ。
 ――後悔なんかするもんか。
 ――もう後悔してるくせに……。


海岸にて

 ――ねえ、あなた、あたしを愛してる?
 ――うむ、愛してるよ。
 ――たくさん?
 ――うむ、たくさん。
 ――きつと?
 ――うむ、きつと。
 ――こんだ、あたしに訊いて頂戴。
 ――なんて?
 ――あなたを愛してるかどうか。
 ――ぢや、お前、僕を愛してるかい?
 ――えゝ、愛してるわ。
 ――どれくらゐ?
 ――これくらゐ…………(接吻しようとする)
 ――まあ、待つてくれ。言葉でさ。
 ――言葉で…………ぢや、死ぬほど。
 ――…………?
 ――…………!
 ――どつちが?


波止場にて

 ――ぢや、六ヶ月ね、きつと?
 ――大丈夫だよ。それより長くなるやうだつたら呼び寄せるから…………役所の方にもその話はしてあるんだ。
 ――六ヶ月でも永いわ。(ハンケチを眼にあてながら)それ以上待たせたら、どんなことになるか、あたし保証しないことよ。
 ――(心の中にて)神よ、われを護り給へ。


劇場の廊下にて

 ――細君は?
 ――細君は旅行中だ。
 ――…………?
 ――例のと一緒にさ。
 ――…………?
 ――吾輩かい…………? 君、吾輩のボツクスを見なかつたかい?


サロンにて

 ――君の近作を読んだよ。大したもんだね。
 ――さうか。奥さんはいかゞです。読んでくださいましたか。
 ――えゝ、拝見しましたわ。あなたの詩は、あなたほど面白くないのね。
 ――ひどいなあ。
 ――あたしたちにはよ。


地下電車の中にて

 ――さ、どいて下さい。それは車掌専用の腰掛けです。
 ――君が立つてゐる間だけ借りたんだよ(しぶしぶ立ち上る)
 ――一寸の間、ね、いゝでせう(腰かける)
 ――いけません、それや…………。
 ――(腰かけたまゝ)今日はね、ムウドンの親戚へ用があつて行つたんだけれど、行きも帰りも立ちどほし……くたびれちやつた。
 ――わたしも立ちつゞけです。
 ――ほんとにね、車掌さんも楽な商売ぢやないわね。
 ――好きでやつてるんぢやありませんや。
 ――あたしだつて好きでメトロなんかへ乗るもんですか。
 ――(もぢもぢしながら)どこまでおいでゞす。
 ――終点までよ。(間)あんたは、何時だつて腰掛けられるぢやないの。


電車の停留場にて

 ――また満員らしいわ。
 ――こら、びしよびしよ、あたしの帽子、あなたのも……。
 ――足が凍…

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