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著作権の精神的擁護
ちょさくけんのせいしんてきようご
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集21」 岩波書店
1990(平成2)年7月9日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2007-07-14 / 2016-05-12
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 誰かの小説にあつたやうに思ふが、ある画家がこれも画家である友人の才能をねたみ、その作品が後世に伝へられることを妨げるため、その友人の作品を全部価格に頓着なく買収して、悉くこれを破棄するといつた話――私は、この話が如何にも作り事らしいのでこれをそのまゝ実際問題の例にはしたくないのだが、それと似た話で――ある女優が若い画家に自分の肖像をかいてもらつたが、どうも気に入らない。そこで金を払つてその画を受けとり、之を焼き棄てゝしまつたといふ事実がある。

 今度は私が実際に遭遇した経験であるが、ある原稿をある書店に売渡したが、その書店はその原稿を活字にする前に紛失してしまつた。(その後、その書店は火災にあつたから、その時焼失したとすれば、不可抗力だから問題は別であるが)処で、その書店は、既に原稿料を払つて、著作権の譲渡を受けてゐるのであるから、紛失しやうが、どうしやうがそれは自分の損失にこそなれ、著者に取つては何等損害にはならぬと考へてをれば大間違ひである。(著者は原稿を書店に売渡す前に手もとに「原稿の控へ」を保存して置くべきであつたといふ非難を受ければそれまでゝあるが)

 もう一つ――今度は脚本の上演についてゞあるが、法律は単に作者の物質的利益を擁護してゐるだけで、従つて、一般興行者も上演料さへ払へばといふ考へがあり殊に、所謂研究的演出の名の下に、上演料免除を当然の権利と心得てゐる半素人劇団などが、最も作者の立場を無視し、その意図に反する舞台を公開し、何等恥る色もないといふ有様である。
 今更、旧いことをかつぎ出すのは当事者には御迷惑かも知れないが、例の帝国劇場で山本有三氏の作を無断改作して上演した事件の如き、また、自分のことをいふなら先日、或人よりの通知によれば、日本映画俳優学校とかいふ処の研究劇試演に拙作『軌道』を無断上演し、しかもプログラムには作者名を隠匿発表した如き、自作の芸術的冒涜さへ監視できない立場にある作者は実にみじめである。

 つまり、これは、甲の描いた絵を、乙が勝手に直し、原作とは似てもつかないものにし、それを甲の作だといつて人に見せるやうなものである。こんなことを、単に徳義上の問題であるから、他に制裁の法がないといつて片づけてしまふことが出来やうか。
 勿論、社会は不合理なことでみたされてゐる。正しい主張が必ずしも通用してはゐない。法律で保護してゐるらしい婦人の貞操さへも、公然と蹂躙され勝ちである。芸術家の著作権にしても、物質的に相当の擁護を受ければ、それで満足しなければならぬかも知れぬが、或る場合には別に述べたやうに、物質問題を離れて、芸術家が最も忍ぶべからざる精神的損害を被つてゐる事実を、この際世間で少し認めてほしいと思ふ。
 例へば、こんなことも法律できめられないものか――法律できめる性質のものでないといふなら、文芸家協会劇作家部の力…

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