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一つの試案
ひとつのしあん
副題――「列」解消のために
――「れつ」かいしょうのために
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集25」 岩波書店
1991(平成3)年8月8日
初出「時局雑誌 第一巻第五号」1942(昭和17)年5月7日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-04-15 / 2014-09-21
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

       一

 先ごろから、魚屋、八百屋、菓子屋などの店先き、多くの主婦たちが一列に並んで順の来るのを待つてゐる買物風景は、どこへ行つても見ないといふわけにはゆかない。
 日本は、まだまだ食ふに困らないだけのものは持つてゐる。みんなが、ちよつと不自由を忍ぶならば、一時間も二時間も並んで待つまでもなく、日常に食ふだけのものは間に合ふ筈である。もちろん、思ふとほりのものが、思ふぞんぶんに食べられるといふことはない。しかし、すべての人が同じやうに不自由を忍んで行かうとすれば、けつして食ふに困るといふことはないはずである。
 なるほど物資の不足は、相当われわれの生活を不自由にするほどになつてゐる。しかし、それはものがないのではなく、ただ、それが一時、国民のすべてに行渡らないといふやうなことで、部分的に相当不自由を感じてゐるのであつて、その点さへうまくゆけば、けつして忍べないほどの不自由ではない。
 たゞ恐ろしいのは、あるものをないと思ひこむこと、ないのではないかと疑うことで、そういふ気持が働いて買物に列をつくることにもなるが、これが人心の不安となつて拡がつたならば、その結果はまことに憂ふべきものである。
 買物に列をつくるのを止めようといつても、誰かゞひとより先によいものをとらうとしたり、誰かゞ、自分だけ不自由な思ひを少くしようとする気持があれば、列を作ることは止まない。列を作ることを止めるのには、物が円滑に行渡るといふことといつしよにみんなが、自分だけ少しでも不自由を避けやうとする、自分本位の考へ方を止めなければならない。それとともに、また一方には、列をつくらないでも間に合ふやうな、やり方を考へてゆくことが必要である。

       二

 ある小さな八百屋の経験によると、店に二十貫の品物がはいつた日には列をつくるといふことがないが、十九貫しかはいらない日には列をつくるといふ。その開きはほんの僅かであるが、その日の入荷が、そのほんの僅かでも多いといふ感じが、人の気持に与へるものは非常にちがふ。誰もが不自由を忍んでゐるときに、その忍んでゐる不自由の程度から、ほんの僅かでも余裕があると感じられることが、人々の心を安らかにし、列をつくるといふことがなくなるのであらうが、かういふ点はよく考慮する必要があると思ふ。買物行列も、こんなところのちよつとした加減で、なくなるのではないかと思ふ。即ちある制限されてゐる量の上に、ちよつと余裕を感じさせることが必要なのである。
 ところが、いつも足らない、ものがないと感じるのは、そう感じる人の心のもち方にもよるが、実際にはあるものが、行き渡らないために無いといふ姿で現はれるからで、それには配給機構の不備や輸送力の不足も大きな原因となつてゐるであらう。
 村に山ほど薯があつても、町の八百屋に薯がなければ、町の人にとつては現実に薯は…

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