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一言(『岸田秋子』について)
ひとこと(『きしだあきこ』について)
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集26」 岩波書店
1991(平成3)年10月8日
初出「岸田秋子(非売品)」1943(昭和18)年8月20日印刷
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-06-19 / 2016-04-14
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


 亡妻秋子について私がこゝで語ることは差控へたい。娘たち二人も、何か書けといふ委員からのお勧めがあつたけれど、それだけはおゆるし願ひたいと私に申出た。これもまた諒とせざるを得なかつた。
 この紀念帖は、われわれ一家に対する類ひなきあまたの友情の所産である。私も娘たちも、また、亡妻の縁者一同も、たゞ感謝の言葉以外はないのである。
 編輯の労をとられた伊賀山君は、亡妻の遺稿とでも云ふべきものを載せたいと云はれたが、もともと文筆を弄ぶ余裕もなく、わづかに不用意にしるした断片的な日記があると云へば云へるだけである。しかし、この日記は、決して公表すべき性質のものではあるまい。たゞ、遺稿などといふ意味でなく、彼女の生涯のある一時期の面影を伝へるといふほどの意味で、ごく一部分を試みに拾つてみた。和歌もまた、平生折にふれて詠んでゐたといふよりも、病床にあつた幾月かの間、徒然のまゝに、ノートへ戯れに書きなぐつた程度のもので、故人はさぞ顔を赧らめて、そんなものをと云ふであらう。が、私は敢て、そのいくつかをこゝに収録させてもらひ、恐らく佯り得ぬ死直前の彼女の心の翳を、わかる人にわかつていたゞきたく思ふ。
 私個人の考へからすれば、時節がらかういふ企ては、むろん賛意を表しかねるのであつたが、極めて内輪にといふ条件づきで、ともかく、若い友人諸君の配慮にすべてを委ねることにした。従つてこの紀念帖は、亡妻とわれわれ一家とに最もちかく、云はゞ、「うちうちのつきあひ」を許していたゞける方面へのみ頒たれることを、私は切に望む。
 この紀念帖は、それゆえ、まづ何よりも、娘二人への贈物として、有りがたくお受けしたい。
 編輯委員、並に、亡妻への好意に満ちた言葉を贈られた方々に、こゝで厚くお礼を申しあげる。



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