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百三十二番地の貸家
ひゃくさんじゅうにばんちのかしや
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集2」 岩波書店
1990(平成2)年2月8日
初出「婦人公論 第十二年第三号」1927(昭和2)年3月1日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2012-02-20 / 2014-09-16
長さの目安約 27 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

人物
宍戸第三
毛谷啓
同京子
目羅冥
同宮子
甲斐加代子
婦人
[#改ページ]


第一場

東京近郊の住宅地――かの三間か四間ぐらゐの、棟の低い瓦家――「貸家」と肉太に書いた紙札が、形ばかりの門柱を隔てて、玄関の戸に麗々しく貼つてある。四月上旬の午後。

その門の前で、立ち止つた夫婦連れ、結婚一二年、今に今にと思ひながら、知らず識らず生活にひしがれて行く無産知識階級の男女である。

毛谷  この家だらうね。
京子  さうでせう。
毛谷  番地が書いてないね。
京子  これですよ。大家さんは何処か聞いてみませう。
毛谷  同番地としてあつたんだから、その隣がさうかも知れないね。表札を見て来てごらん。宍戸だよ。
京子  (帰つて来て)ちがひますわ。そいぢや、向うかしら……。
京子  さうぢやなくつて? 若しかしたら、裏かも知れないわ。(裏へ廻らうとする)
毛谷  待て、待て。一寸、外側だけでも見てからにしようぢやないか。庭は、これで沢山だね。
京子  さうね。市中のことを思へばね。
毛谷  これが、八畳と六畳かな。便所がそこと……。日当りは好ささうだね。
京子  それやもう……。あたし、お台所さへ気に入つたら、すぐにでも借りますわ。
毛谷  さうまあ急ぐなよ。しかし、今日は草臥れた。
京子  でも、散歩だと思へば、なんでもないぢやありませんか。あなたは、すぐに草臥れておしまひになるから駄目よ。お天気だつて、四月にしちや上出来ですわ。
毛谷  僕は何時でも草臥れてるやうなもんだ。近頃は……。さうすると、玄関と、もう一間あるわけだね。三畳か四畳半だらうね。なるほど……これならいゝや。
京子  停車場だつて、さう遠くはないでせう。今日はずゐぶん廻り路をしたからですけれど……。
毛谷  三十五円ていふところだらうな。少し辛いね。
京子  さあ、話次第では三十円にするでせう。
毛谷  間部のうちが、あれで、四十円だからね。尤も、先生は煙草も喫はない。円本も買はない……。元来、店に建てた家だからね。
京子  奥さんも、おめかしをしないでせう。兎に角、大家さんに話してみませうよ。
毛谷  なんて話すんだい。
京子  その前に、中を見せて貰はなくちや、あなた……。
毛谷  あ、さうか。隣で訊けばわかるだらう。

(この時、裏から宍戸第三、薪を割る鉈を持つてあらはれる)

宍戸  あなた方、何か御用ですか。
毛谷  はあ、実は、この家を見たいんですが……。
宍戸  あなた方がお住ひになるんですか。(二人を見上げ見下しする)
毛谷  さうです。僕達夫婦です。
宍戸  お二人きりですか。
京子  二人きりですわ。女中をそのうち置かうと思つてますけど……。
宍戸  その外にあとから、どなたか外においでになるやうなことはありますまいな。
毛谷  今の処、ありません。
宍戸  お子さん…

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