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平山婆
ひらやまばば
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」 学研M文庫、学習研究社
2003(平成15)年10月22日
入力者Hiroshi_O
校正者noriko saito
公開 / 更新2010-11-23 / 2014-09-21
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


 福岡県嘉穂郡漆生村に平山と云う処があって、そこに坑夫の一家が住んでいた。家族は坑夫の息子夫婦とその両親の四人であった。
 明治末季比、その両親夫婦、即ちお爺さんとお婆さんが、ちょっとした病気で僅かの間に死んでしまった。ところで、その爺さんと婆さんが死んでから間もない時のこと、そこの息子の細君が何かの用事で壁厨を開けたが、開けるなり、
「わ」
 と云って外へ飛び出した。庭では息子が薪を割っていた。息子はその声に驚いて、
「何だ、どうしたのだ」
 と云って聞いたが、細君は真蒼な顔をして顫えているばかりで何も云わなかった。そこで息子が又聞いた。
「おい、どうしたのだ、何かあったのか」
「お爺さんとお婆さんがおった」
 と云って、細君は家の中を恐ろしそうに見た。息子はばかばかしかった。
「ばかだなあ、死んでしまった者が、どうしておる、神経だよ」
「神経じゃないよ、ほんとだよ、嘘と思や往って見るがいい」
「ばかだなあ、今の世に、そんな事があるものか」
「だって、ほんとだよ、往ってみるがいい」
 細君の物脅えの顔色が治まらないので、息子はとうとう上へあがって、細君の締め残してあった壁厨の襖を開けた。壁厨の中にはお爺さんとお婆さんが並んで、行儀よく坐っていた。息子もそれにはぎょっとしたが、家長として責任があった。
「何か云いたいことがあるかね、あるなら云ってもらおう、そんなことをせられては、みっともない」
 と云うと二人の姿はぱっと消えてしまった。
 夜になって細君が蒲団を出そうと思って壁厨を開けた。壁厨の中には昼間のとおりにお爺さんとお婆さんが坐っていた。細君は夫が傍にいるので気が強かった。
「そんなに、何時も出てどうします、困るじゃありませんか」
 細君は二人にかまわずさっさと蒲団を出そうとした。すると二人の姿は消えてしまった。
 朝になって細君が蒲団をしまおうとしてその壁厨を開けると、また二人がその中に坐っていた。
 それから昼でも夜でも、壁厨を開けさえすれば、二人の坐っている姿が見えたが、ただ坐っているばかりで何もしなかった。この壁厨の怪異は、やがて村中の評判になり、村の人はそれを平山婆と呼んだ。
 平山婆の噂があまり高くなったので、息子夫婦はそこにいられなくなって、別の炭坑地へ引越したが、そこにも爺さんと婆さんがやはり壁厨の中に姿を見せるので、又別の家へ移ったが、そこへも爺さんと婆さんは蹤いて来た。



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