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かげろふ談義
かげろうだんぎ
副題――菱山修三へ――
――ひしやましゅうぞうへ――
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「坂口安吾全集 03」 筑摩書房
1999(平成11)年3月20日
初出「文体 第二巻第一号」スタイル社、1939(昭和14)年1月1日
入力者tatsuki
校正者noriko saito
公開 / 更新2008-11-06 / 2014-09-21
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 二ヶ月ばかりお目にかかりませんが、御元気のことは、時々人づてにきいてゐました。さて、僕は今日、人々は笑ふばかりで、とりあつてくれさうもないことに就いてお喋りしたくなりましたので、君にあてて話しかける必要にせまられました。
 東路の道のはてよりも、なほ奥つかたに生ひ出でたる人、いかばかりかはあやしかりけむを、いかに思ひ始めけることにか、世の中に物語といふもののあんなるを、いかで見ばやと思ひつつ、徒然なるひるま、よひゐなどに、姉継母などやうの人々の、その物語、かの物語、光源氏のあるやうなど、ところどころ語るを聞くに、いとどゆかしさまされど、わが思ふままに、そらにいかでか覚え語らむ。いみじく心もとなきままに、等身の薬師仏を作りて、手洗ひなどして、ひとまに密に入りつつ、京に疾くのぼせ給ひて、物語の多く侍ふなる、あるかぎり見せ給へと、身を捨てて額をつきいのり申すほどに、十三になる年のぼらむとて、九月三日門出して――
 このやうな少女達は、いつも君の友達でしたね。さういへば、この雑誌に、君がたうとうプルウストを書きだしたのを読みました。たうとう……思へば十年このかた、君と会へば、プルウストのでないことはなかつたのだから。「失はれし時をもとめて」をどうして書く気になつたのだらう……君がそこから語りはじめてゐるのを、僕は自分の思ひのやうな親しさで読み、やがて自分の思ひの中へ落ちてゐました。
 マリイ・シェイケビッチ夫人のプルウストに就いてのクロッキによりますと、病弱の彼も然し却々の勇み肌で、あるとき夫人をさらふやうにしてシロといふ料理店へ連れ込みました。以下、夫人の筆をかりませう。
「ある冬の朝。大戦中のことです。プルウストは立ち現れると言ひはじめました。
 ――今夜はあなたを浚つてゆきますよ。おいやなら仕方がありませんけど。シロへ行くんです。あすこの料理はとてもしつかりしてゐると聞いたものですから。あなたはいつも夜会に私を招待して下さるから、今夜は私も御礼に……ありがたい。風をひくといけませんよ。私のカラーなんか見ちやいけませんね。どこか間違つた服装をしてゐれば、それはもうセレストの奴がした業に違ひないんです。あいつときたら、きまつて私に恥をかかせようとするんだから。あ。いいえ、タキシはお呼びにならなくともよろしいんです。ちやんと私のが下に待つてる筈なんですから。足の冷めたさは御心配なさらなくともいいんですよ。車の中にちやんと毛皮を用意しておきましたから。……いや、まつたく。こんな妙な服装をした男と外出なさるのは、あなたの恥かも知れないな……
 私達は真暗な人通りない巴里を走つて、またたくうちにシロへつきました。
 ――君。と、プルウストは支配人に言ふのです。夫人のために一番いい席をこしらへて下さいませんか。出来のいいシャンパンをすぐ冷やして……いえ、いえ、ぜひこいつを…

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