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母の話
ははのはなし
著者
翻訳者岸田 国士
文字遣い新字新仮名
底本 「世界名作選(一)」 日本少国民文庫、新潮社
1998(平成10)年12月20日
入力者川山隆
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2008-02-05 / 2014-09-21
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

[#挿絵]
  前がき
 アナトール・フランスは本名をアナトール・チボーといい、フランスでも第一流の文学者であります。千八百四十四年、パリの商家に生まれ、少年の頃から書物の中で育ったといわれるくらい沢山の本を読みました。それもただ沢山の本を読んだというだけでなく、昔の偉い学者や作家の書いた本を実に楽しんで読んだのです。
 彼は、詩、小説、戯曲、評論、伝記、その他いろいろなものを書きましたが、すべて、立派な作品として長く残るようなものが多く、中でも、小説と随筆とには、世界的な傑作が少なくありません。
 ここにのせた「母の話」は、その追憶風の小説『ピエール・ノジエール』の中の一章で、これだけ読めばアナトール・フランスがみんなわかるというようなものではありませんけれど、まずまず、どんな人か見当がつくでしょう。
 非常に物しりですが、わざわざむずかしいことをいわない。なんでもないことをいっているようで、よく読んでみると、なかなか誰にでもいえないことをいっている。ちょっと皮肉なところがありますが、優しい微笑をたたえた皮肉で、世の中の不正や醜さに、それとなく鋭い鋒先を向けています。
 何よりも、力み返ること、大声を立てることが嫌いです。どんなことでも、静かに話せばわかり、また、静かに話し合わなければ面白くないという主義なのです。
 熱情も時には素晴らしい仕事をさせる武器ですが、冷静は常に物の道理を考えさせる唯一の力です。
 アナトール・フランスは、また、世界で屈指の名文家です。文章は平明で微妙で調子が整っていて、その上自然な重々しさをもっています。これを澄んだ泉の水にたとえた人がいますが、実際フランス語でこれを読むと、もう百倍も美しい文章だということがわかります。
 千九百二十四年、すなわち大正十三年に、彼は死にました。これで一時代が終わったといわれるほど大きな事件でありました。(訳者)


「わたしには、どうも想像力っていうものがなくってね。」と、母はよくいったものだ。
「想像力がない」と彼女がいったのは、それは想像力といえば、小説を作るというようなことだけをいうものと思っていたからで、その実、母は自分では知らずにいるのだけれど、およそ文章では書きあらわせないような、まことに愛すべき、一種特別な想像力をもっていたのだ。母は家庭向きの奥さんという性の人で、家の中の用事にかかりっきりだった。しかし、彼女のものの考え方には、どことなく面白いところがあったので、家の中のつまらない仕事もそのために活気づき、潤いが生じた。母は、ストーヴや鍋や、ナイフやフォークや、布巾やアイロンや、そういうものに生命を吹きこみ、話をさせる術を心得ていた。つまり彼女は、たくまないお伽話の作者だった。母はいろいろなお話をして、僕を楽しませてくれたが、自分ではなんにも考え出せないと思っていたものだから、…

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