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クロニック・モノロゲ
クロニック・モノロゲ
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集5」 岩波書店
1991(平成3)年1月9日
初出「文芸春秋 第十一年第一号」1933(昭和8)年1月1日
入力者kompass
校正者門田裕志
公開 / 更新2008-04-28 / 2014-09-21
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

海岸の小さな貸別荘。

舞台は八畳と六畳の二間続きで、八畳には籐椅子、テーブルの他に本箱、寝台、六畳には、同じく寝台を中央に、箪笥、屏風、鏡台、衣桁、長椅子。
奥は一間の張出窓、硝子戸が締めてある。

長椅子に、女が倚りかゝつてゐる。女は毛糸の襟巻をし、腰から下を毛布で包み、紙人形をこしらへてゐる。
時々、歌を口吟むのだが、すぐに息切れがするので、そのたびに、大きく溜息をつく。
ほゞ形の出来上つた人形を、明りに照してみながら、
[#改ページ]

女  どうして、今日はかう遅いんだらう。また悪友に引張られて、銀座をうろつき廻つてるんだわ。終列車に乗り遅れたつて、知らないから……。四円四円つて馬鹿にならないのよ。はゝゝゝ、なるほど、肩が怒りすぎてるわ……。どうも、ピエロの感じが出ないと思つた……。こらこら、もつと肩をおさげ……。今、眼の縁を青く塗つたげるからね。そうら、うまい工合に月が出て来たぢやないの……。明日籾山先生がいらつしやるまでに、ちやんと出来てないといけないわ。あの先生は、何かしら、あたしにお世辞が云ひたくつてしやうがないのよ。そろそろ種がなくなつて困つてるに違ひないわ。(歌を唱ふ。やがてまた、溜息をつく)あゝ、苦しい。いやんなつちやふなあ、歌も唱へないなんて……。思ひきり大きな声を出して、また……(急に口を噤む)よさう、まだ生きてれば、なんかしらいゝことがあるわ。あと一月の辛抱だつて、先生もおつしやつた。さうすると、いよいよ東京へも帰れるし、お友達にも会へるし、……さあ、これでよしと、ズボンがちつと細かつたかな……。まあいゝや。(また歌を唱ひはじめる。が、長くは続かない)どれ。お化粧にかゝるとして、動くのは寒いな。(ゆつくり起き上らうとする)

電燈が突然消える。

女  あら、随分だわ。今頃停電なんて、どうかしてるわ。

その時、窓の外へ覆面の男が忍び寄り、そつと硝子戸を開けていきなり躍り込み、女の後から抱きつく。女は悲鳴をあげてその場に倒れる、覆面の男は、素早く窓から飛び出し、姿を消す。
長い間。波の音、時計が十二時を打つ、やがて、玄関の格子が開き、人の上つて来る気配。次いで、部屋の中へづかづかとはひつて来た男、外套と帽子を着たまゝ、片手に買物の包みをさげてゐる。

男  どうしたんだ。明りをみんな消して……、もう眠たのかい。(手探りで、電燈のスヰッチをひねつてみるが……)おや駄目ぢやないか。をかしいな。隣りは点いてたぜ。シイ坊、ちよつと起きろよ。何時から消えたんだい。おい、シイ坊……戯談ぢやないぜ……。(寝台に近づかうとして、そこに倒れてゐる女のからだにつまづく)あツ! ど、ど、どうした、シイ坊。しつかりしろ、おれだよ、こら、おれだつてば……。あゝ、なんだつて、こんなに急に……。おれが悪かつた……遅くなつてすまなかつた……。おい、シイ坊、勘弁…

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