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喧嘩上手
けんかじょうず
作品ID46870
副題(トオキイ脚本)
(トオキイきゃくほん)
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集5」 岩波書店
1991(平成3)年1月9日
初出「日本国民 第一巻第四号」1932(昭和7)年8月1日
入力者kompass
校正者門田裕志
公開 / 更新2008-04-28 / 2014-09-21
長さの目安約 41 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

人物(画面に現はれる順)
春日珠枝  更子の弟子
天城更子  映画女優
老婢よし
武部    日の出新報記者
横川    更子のパトロン
嬉野    弁護士
三堂微々  漫画家
加治わたる 同右
中根六遍  同右
新聞記者A
同B
同C
運転手
監督
高見    「トオケウトオキイ」支配人
社員
女優A
男優B
女優C
女優D
家庭倶楽部記者
客A┐
客B├雑誌記者
客C┘
宝石屋の番頭
女給A
同B
同C
その外、無言役多勢
[#改ページ]

     一

○天城更子の家の応接間。

弟子の春日珠枝が襷掛けで歌を唱ひながら掃除をしてゐる。午後十時。

○更子の寝室。

寝台で眠つてゐる彼女。
老婢よしが新聞の束を枕下に置いて去る。

○応接間。

珠枝  先生はまだ眠つてらしつて?
老婢  まさか狸寝ぢやありますまいね。こないだみたいに、胡瓜の尻尾を口へ入れてたらさ、あんた、「婆や何たべてたの」なんて、後で云はれるんだから、油断がなりませんよ。

○寝室。

更子が眼をさます。半身を起し、新聞を一つ一つ取上げて、演芸欄に日を通す。「ふん」とか、「ちえツ」とか、「へえ」とか、ひと通りの挨拶。さて、最後の一枚を取り上げ、
更子  どうしたつて云ふんだらう。近頃、さつぱり名前が出なくなつちやつたわ。そのくせ、何本も取つてるんだけど……。
が、彼女の眼は、急にある頁に吸ひ寄せられる。彼女の漫画が出てゐるのだ。険しい表情。新聞を荒々しく投げ出し、極度の不満を抑へてゐる様子である。やがて、また、それを取り上げ、しげ/\と見つめながら、「さう云へば、どつか似てるかしら……」と呟く。
笑ひたくもあり、泣きたくもあり、彼女は、手鏡を取り上げて自分の顔を映して見る。
それから、呼鈴を押す。
珠枝が現はれる。
更子  (件の漫画を、説明の部分だけ片手で押へながら、珠枝に見せ)これ、だれだかわかる?
珠枝  (むろん直ぐにわかり、笑ひだしさうになつたのを、相手の眼付で、それを察し)さあ……。
更子  わからない筈ないわ。
珠枝  わかりませんですねえ。どなたでせう。
更子  どなたなんて云はなくたつていゝよ。どうせ、へつぽこ画かきなんだもの。三堂微々なんて、だあれも知りやしないだろ。
珠枝  漫画家つて、何うしてかう、意地が悪いんでせう。こんな風に描かれて、愉快になるひとなんか、ないと思ひますわ。
更子  だからさ、ちやんと云つとくれよ、これがあたしだと見えるか何うか。
珠枝  (当惑して)あら、これが先生……いやですわ……先生がこんな……
更子  失敬ぢやないの第一。ねえ、さうだらう。これを見たら、だれだつて、あたしに愛想をつかしちやふわ。
珠枝  そんなこと、ありませんわ、先生。漫画なんてだれでも真面目に見やしませんし、それに、新聞はその日かぎりですもの。
更子  冗談云つ…

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