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織成
しょくせい
著者
翻訳者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「聊斎志異」 明徳出版社
1997(平成9)年4月30日
入力者門田裕志
校正者松永正敏
公開 / 更新2007-09-21 / 2014-09-21
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 洞庭湖の中には時とすると水神があらわれて、舟を借りて遊ぶことがあった。それは空船でもあると纜がみるみるうちにひとりでに解けて、飄然として遊びにゆくのであった。その時には空中に音楽の音が聞えた。船頭達は舟の片隅にうずくまって、目をつむって聴くだけで、決して仰向いて見るようなことをしなかった。そして、舟をゆくままに任しておくと、いつの間にか遊びが畢って、舟は元の処に帰って船がかりをするのであった。
 柳という秀才があって試験に落第しての帰途、舟で洞庭湖まで来たが酒に酔ったのでそのまま舟の上に寝ていた。と、笙の音が聞えて来た。船頭は水神があらわれたと思ったので、柳を揺り起そうとしたが起きなかった。船頭はしかたなしに柳をそのままにして舟の底へかくれた。
 と、人が来て柳の頸筋をつかんで曳き立てようとした。柳はひどく酔っているので持ちあがらなかった。そこで手を放すとそのまままたぐったりとなって眠ってしまった。しばらくしてその柳の耳に鼓や笙の音が聞えて来た。柳はすこし眼が醒めかけたのであった。蘭麝の香が四辺に漂っているのも感じられた。柳はそっと窺いてみた。舟の中は綺麗な女ばかりで埋まっていた。柳は心のうちでただごとでないことを知った。柳は目をつむったように見せかけていた。しばらくして、
「織成、織成。」
 と口移しにいう声がした。すると一人の侍女が来て、柳の頬の近くに立った。それは翠の襪に紫の色絹を着て、細い指のような履を穿いていた。柳はひどく気に入ったので、そっと口を持っていってその襪を齧んだ。しばらくして女は他の方にいこうとした。柳が襪を齧んでいたためによろよろとして倒れた。一段高い所に坐っている者がその理由を訊いた。
「その方は、何故に倒れたのか。」
 女はその理由を話した。
「ここにいる人間が私の襪を齧んだためでございます。」
 高い所にいた者[#「者」は底本では「音」]はひどく怒った。
「その者に誅を加えるがよかろう。」
 武士が来て柳をつかまえ曳き立てていこうとした。高い所には冠服をした王者が南に面して坐っていた。柳は曳き立てられながらいった。
「洞庭の神様は、柳姓でありますが、私もまた柳姓であります。昔、洞庭の神様は落第しましたが、私も今落第しております。しかるに洞庭の神様は、竜女に遇って神仙になられ、今私は酔って一人の女に戯れたがために死ぬるとは、何という幸不幸の懸隔のあることでしょう。」
 王者は、それを聞くと柳を呼びかえして問うた。
「その方は下第の秀才か。」
 柳はうなずいた。そこで王者は柳に筆と紙をわたして、
「風鬟霧鬢の賦を作ってみよ。」
 といった。柳は嚢陽の名士であったが、文章を構想することは遅かった。筆を持ってやや久しく考えたができなかった。王者はそれをせめた。
「名士、どうして遅い。」
 柳は筆を置いていった。
「昔、晋の左思が作った…

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