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安吾新日本風土記
あんごしんにほんふどき
副題02 第一回 高千穂に冬雨ふれり≪宮崎県の巻≫
02 だいいっかい たかちほにふゆさめふれり≪みやざきけんのまき≫
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「坂口安吾全集 15」 筑摩書房
1999(平成11)年10月20日
初出「中央公論 第七〇年第二号」中央公論社、1955(昭和30)年2月1日
入力者砂場清隆
校正者塚本由紀
公開 / 更新2014-12-04 / 2014-11-14
長さの目安約 35 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 私たちが羽田をたつ日、東京は濃霧であった。私が東京で経験した最も深い霧。半マイルの視界がないと飛行機の離着陸ができないそうで、八時にでるはずの福岡直行便が十二時ちかくようやく飛びたった。しかし乗客一同出発をうながしたり怒ったりする者が一人もいなかったのはイノチの問題だからやむをえない。むろん私も怒らない。待合室で待っていられる私たちはむしろ幸福なのだ。着陸できない飛行機が何時間も上空を旋回している。さぞ辛いだろうなと思った。私はこのDC6型という飛行機で東京上空を旋回し、たった十分間で乗客全員がのびた経験があるのだ。半数以上ゲロをはいたものだった。
 出発がおくれたので、宮崎行きの旅客機に乗りおくれ、汽車にもおくれて、その日は小倉で一泊しなければならなかった。こんな旅もまた面白いものだ。
 私がこの仕事の第一回目に日向を選んだのは、旧友の中村地平君が宮崎の図書館長をしているからだ。本も借りられるし、土地の話も教えてもらえるし、こんな便利なことはないというわけで、一も二もなく日向にきめた。それに冬の旅は南に限る。
 宮崎は小ヂンマリした明るい町。非常に道路の幅がひろいけれども、小ヂンマリという以外に言いようがないほど可愛いい町だ。私が小学生のころ、県庁所在地で市でないのが二つあった。宮崎と浦和だ。いまもってそんな感じの町。十二月中旬だったが、町の中に冬の気配が何一ツ見られない。図書館の前に県庁があった。県庁の庭に三百人ほどの自由労働者が赤旗をふってデモをやってる。神話の国へきていきなりデモにぶつかったのにはおどろいたが、さすがにノンビリしたもので、警官なぞ一名も出動していない。殺気だったところがなくて、南国はデモも明るかった。
 日向は天孫降臨の伝説の地。しかし日向の高千穂町を主張する宮崎県と霧島山の高千穂峯を主張する鹿児島県とが高天原の本家争いをしているのでも分るように、伝説を史実化しようとするのが無理だ。伝説はこれを伝説だけのものとして受けとるのが健全だ。先祖の残した文化的遺産として軽く受けとれば足るのである。
 伝説として受けとれば日向のそれは南国にふさわしい明るさにみちている。山の幸、海の幸の話。竜宮へ行って結婚する話。また十六歳の日本武尊が女装して熊襲を退治する話。この熊襲がいまわの言葉に、あなたのような強い人にははじめて会った。あなたの強さは日本一だからヤマトタケルと名のりなさいと云って死ぬ。いまの九州にもこういう無邪気な豪傑が居そうな感じではないか。
 阿蘇から日向に入る古い道筋に高千穂の町がある。ここには岩戸村があったり、天の岩戸があったり、高天原も天安河原もみんな揃いすぎるほど揃っている。しかし実際に土地の神様と目される高千穂神社は一応祭神が神武天皇の兄三毛入野命となっているけれども、実際は土地の豪族高千穂太郎を祭ったものらしく、太郎の子孫…

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