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(七銭でバットを買つて)
(ななせんでバットをかって)
作品ID51350
著者中原 中也
文字遣い新字旧仮名
底本 「中原中也詩集」 角川文庫、角川書店
1968(昭和43)年12月10日改版
入力者ゆうき
校正者木浦
公開 / 更新2013-04-10 / 2014-09-16
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


七銭でバットを買つて、
一銭でマッチを買つて、
――ウレシイネ、
僕は次の峠を越えるまでに、
バットは一と箱で足りると思つた。

山の中は暗くつて、
顔には蜘蛛の巣が一杯かかつた。
小さな月が出てゐるにはゐたが、
それでも木の繁つた所は暗かつた。

ア、バアバアバアバ、
僕は赤ン坊の時したことを繰返した。
誰も通るものはなかつた。

暫くゆくと自転車を坂の下に落として、
自分一人は草を掴めば上れるが、自転車を置いとくわけにもいかず
といふ災難者にあつた。

自転車に紐か何か付いてるでせう、と僕は云つた。
へい、――それには全く気が付きませんでした、

自転車は月の光を浴びながら、
ガタ/\といつて引揚げられた。

――いつたい何処までゆきなさる、
――いえ、兄の嫁の危篤を知らせに、此の下の村まで一寸。

自転車の前の、ランプが灯つた。――おとなしさうな男である。

僕は煙草に火を点けて、去りゆく光を眺めてゐた。

アババババ、アババババ、



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