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傀儡の夢(五場)
くぐつのゆめ(ごば)
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集3」 岩波書店
1990(平成2)年5月8日
初出「女性 第十二巻第二号」1927(昭和2)年8月1日
入力者kompass
校正者門田裕志
公開 / 更新2012-02-29 / 2014-09-16
長さの目安約 31 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

有田浩三
妻 倉子
書生水垣
小間使銀
下働 滝
水垣の友竹中
[#改ページ]




有田浩三の書斎。朝。

浩三  (読んでゐる新聞から目を放さずに、はひつて来た妻に向ひ)おはやう。昨夜はよく眠つたかい。何か寝言を云つてたね。
倉子  (夫の手から新聞を取り上げ)これ、もう御覧になつたんでせう。ええ、よく眠ましたわ。寝言なんか云つて、あたくし?
浩三  お前の寝言はこれで三度目だ。お前が、そんな顔をして、恐ろしい秘密をもつてゐようとは思はないが、それでも、何か、おれが知らずにゐるやうなことを口走りやしないかと、いつでも冷や冷やしてるんだ。
倉子  あら、そんなに、あたくしのことを問題にしてゐて下さるの。ありがたいわ。それで、あなた、今日はまたお帰りがお遅いんでせう。
浩三  遅いかも知れない。どうして?
倉子  いいえ、遅ければ遅くつてかまひませんわ。そのつもりでゐますから……。ぢや、どうぞ、お食堂へ……。
浩三  その前に、一寸お前に聞いて置きたいことがあるんだがね。(間)お前は、家の中のことはなんでも知つてるだらうね。
倉子  ……。
浩三  おれはこの通り忙しいからだで、家のことは何もかまつてゐられない。お前が、もう少し目をつけてゐてくれないと困る。
倉子  何かお気に召さないことがあるんですの。
浩三  お前は、水垣と銀のことで、近頃何か気がついたことはないか。
倉子  水垣と銀と……何か間違ひでもございましたの。
浩三  間違ひがあつたか、これから間違ふか、そこまではわからん。しかし、兎に角、危険な状態にあることは事実だ。
倉子  何かさういふことを御覧にでもなりましたの。
浩三  見た。たしかに見た。
倉子  何を御覧になつたんですの。
浩三  何をつて……さういふことをさ。二人は、暇さへあれば、隅つこで、こそこそ立話をしてるぢやないか。(間)おれは、さういふところを、今までに何度も見つけたよ。今朝も、おれが寝室を出ると、箒を持つた銀と、手拭をぶらさげた水垣とが、便所の蔭で切りに内証話をしてゐた。二人は、おれの姿を見ると、慌てて左右に別れたが、その目つきは、たしかに総てを語つてゐた。
倉子  不思議ですわね。あたくし、ちつとも、そんなところを見ませんわ。
浩三  見ても気がつかずにゐるんだらう。お前には男女関係などといふものの本体がよくわからんかも知れんが、若い男と女とが、人目をさけて、ひそひそ話をするといふことが、もう、ただの関係ではない証拠だ。それくらゐのことはわかるだらう。
倉子  さうとばかりは云へませんわ。あの人たちには、あの人たち共通の利害問題だつてありますわ。さういふ問題についていくらも話しがある筈ですわ。
浩三  さう取りたければ取つたつていいさ。おれは、なにも、わざわざ二人の関係をやましいものにする必要はない。ただ、間違ひ…

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