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動員挿話[第一稿]
どういんそうわ[だいいっこう]
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集3」 岩波書店
1990(平成2)年5月8日
初出「太陽 第三十三巻第一号」1927(昭和2)年7月1日
入力者kompass
校正者門田裕志
公開 / 更新2012-02-20 / 2014-09-16
長さの目安約 25 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

宇治少佐
鈴子夫人
馬丁友吉
妻 お種
従卒太田
女中よし

明治三十七年の夏

東京
[#改ページ]


第一場

宇治少佐の居間。――夕刻
従卒太田が軍用鞄の整理をしてゐる。
宇治少佐が和服姿で現はれる。

少佐。もう大概揃つたか。
太田。はあ。
少佐。家の者には会つとかんでもいゝのか。
太田。…………。
少佐。なんなら、此処で会つてもいゝぞ。お母さんに来るやうに云つたらどうだ。
太田。駄目です。泣かれると却つて五月蠅いですから……。
少佐。ぢや、もう、今日はいゝから、隊へ帰れ。明日はもう来なくつてもいゝ。馬丁を呼んでくれ。
太田。はあ……(その辺を片づけて)では、帰ります。御判をどうぞ……(証明書に捺印したる後、一礼して起ち去る)
少佐。あ、それから、副官に、今夜はもう用はないつて、さう云へ。
太田。はあ。副官殿に、今夜はもう御用はないと申します。
少佐。(腕を組んで、何事か考へ込む)

夫人現はる。

夫人。後のことは、ほんとに、御心配なさらないで……。
少佐。心配してやしないさ。
夫人。ぢや、何を考へていらつしやるの。
少佐。何も考へてやしない。
夫人。うそばつかし……(夫の顔を見つめてゐるが、いきなり、その膝に泣き伏す)
少佐。(途方にくれて)おい、どうしたんだ。誰か来ると見つともないから、さ、ちやんとして……。(夫人が、からだを起すと同時に、馬丁友吉がおづおづ現れる。)
少佐。や、御苦労……。もつと、こつちへはひれ。寝藁は、新しいのと更へたね。
友吉。はあ。
少佐。そこで、早速だが、お前の決心を聞きたいんだ。どうだ、一緒に行くか。
友吉。…………。
少佐。戦争に行けば、勿論、命はないものと覚悟をせにやならん。副馬の世話は、勿論馬卒にさせるが、正馬だけは、お前の受持だ。おれの行くところへは、何処へでもついて来るんだ。弾丸の下をくゞる元気があるか。(間)いや、元気があるなしの問題ぢやない。お前は軍人ぢやないんだから、戦争で死ぬ義務はないさ。戦争に行くのはいやだと云つたつて誰も何んとも云やしない。お前がゐてくれゝば、おれは助かる。あの馬は、お前にだけは馴れてゐるし、それに、あの通り手のかゝる馬で、一寸、初めての者には勝手がわからない。うつかりすると、取り返しのつかないことをされさうだが、それは、まあ、こつちの都合で、お前は、お前で、自分の都合を考へるがいゝ。(間)軍人の馬を預かつてゐれば、日頃こんな時の覚悟も、まあ、してるだらうと思ふが、念の為め、聞いて見るんだ。遠慮なく返事をしてくれ。
友吉。…………。
少佐。こつちへ残して行くものゝ世話は、勿論、引受ける。なんなら、万一の用心に生命保険ぐらゐついといてやつてもいゝ。
友吉。…………。
少佐。そのからだで、その年で、一体なら兵隊に取られてゐる筈なんだ。それを思や、戦争に行くのは当り前だ。なあ、さうぢ…

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