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郷土
きょうど
作品ID55261
著者今野 大力
文字遣い新字新仮名
底本 「今野大力作品集」 新日本出版社
1995(平成7)年6月30日
初出「日本詩人 新詩人号」新潮社、1924(大正13)年6月号
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2015-02-12 / 2015-01-28
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



草深い放牧地よ 北海の高原に群がれる人々を養える郷土よ 北海道よ 未開地よ
ここには名もなき小花も咲くであろう
未だ人手に触れない谷間の姫百合も咲くであろう
春ともなれば黄金の福寿草も咲くであろう
かくてアイヌ古典の物語も想い出されるであろう

おお郷土の人々よ
昔は 卿等が渡道の頃は 何処にも熊は住んでいた
時として卿等よ 憶い起してはならない
あの殺伐な熊狩のあたりのことを
又若き人々よ
あまりに華やかさを粧うてはならない
卿等の親達は あの幾千年以前から住みなれた故郷を捨てて 一意に 荒野の生活に憧憬れて来たのだから
ここでは凡てが自然の素朴であらねばならない
煤びたセピア色もて彩られた家は
最も卿等の住家であらねばならない

おお郷土の人々よ
卿等は自然の人である
卿等は自然の法による
敢て立法博士を要しない
自然は最も自由な さて正確な立法者である
土に生れて 土に還る それは真に意義ある生命の時である 卿等のかばねは 卿等のけものは 卿等の小花は

ああ 自然の不滅にあらぬものは すべて朽ち果てて
豊沃なる土となる
かくて永遠に還りゆく……

日本否世界の 神秘派の 古典派の人々よ
此処には珍らしいものがある
木の皮の織物 余韻の歌謡 雑木の彫刻 それら皆露わなままに 虐げられたアイヌ人種の生み成せる まことに尊い芸術である
我等はシャモ(一)は これ等見なれて尚飽くなきものの為めには あらゆる讃美の言葉を惜しまない。

ああ オオツク海よ 太平洋よ
氷山流れて港をうずむる 融雪のころ
白熊のうそぶく千島の彼方は アラスカの洲 北極の圏 永遠の冬
我等の郷土はここにある。

(一)アイヌが言う日本人のこと



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