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蝶を夢む
ちょうをゆめむ
著者萩原 朔太郎
文字遣い旧字旧仮名
底本 「萩原朔太郎全集 第一卷」 筑摩書房
1975(昭和50)年5月25日
初出蝶を夢む「感情 第二年一月號」1917(大正6)年1月号<br>腕のある寢臺「感情 第二年六月號」1917(大正6)年6月号<br>青空に飛び行く「感情 第二年二月號」1917(大正6)年2月号<br>冬の海の光を感ず「感情 第二年二月號」1917(大正6)年2月号<br>騷擾「詩歌 第七卷第四號」1917(大正6)年4月号<br>群集の中を求めて歩く「感情 第二年六月號」1917(大正6)年6月号<br>内部への月影「帆船 第二號」1922(大正11)年4月<br>陸橋「表現 第一卷第二號」1921(大正10)年12月号<br>灰色の道「詩歌 第八卷第一號」1918(大正7)年1月号<br>その手は菓子である「感情 第二年六月號」1917(大正6)年6月号<br>その襟足は魚である「詩篇 第一卷第一號」1917(大正6)年12月<br>春の芽生「卓上噴水 第二集」1915(大正4)年4月<br>黒い蝙蝠「日本詩人 第二卷第七號」1922(大正11)年7月号<br>石竹と青猫「日本詩人 第二卷第七號」1922(大正11)年7月号<br>海鳥「日本詩人 第二卷第七號」1922(大正11)年7月号<br>眺望「日本詩人 第二卷第二號」1922(大正11)年2月号<br>蟾蜍「日本詩人 第二卷弟一號」1922(大正11)年1月号<br>家畜「詩歌 第八卷第一號」1918(大正7)年1月号<br>夢《とらうむ》「日本詩人 第二卷第一號」1922(大正11)年1月号<br>寄生蟹のうた「日本詩人 第二卷第六號」1922(大正11)年6月号<br>野鼠「日本詩集 第五册」1923(大正12)年5月刊<br>閑雅な食慾「日本詩人 第一卷第三號」1921(大正10)年12月号<br>馬車の中で「東京朝日新聞」1922(大正11)年4月8日<br>野景「白金帖」1915(大正4)年6月号<br>絶望の逃走「太陽 第二十八卷第十一號」1922(大正11)年9月号<br>僕等の親分「近代文藝 創刊號」1922(大正11)年10月号<br>涅槃「太陽 第二十八卷第十一號」1922(大正11)年9月号<br>かつて信仰は地上にあつた「秦皮 第五卷第四號」1922(大正11)年5月号<br>まづしき展望「現代詩人選集」1921(大正10)年2月刊<br>波止場の烟「婦人公論 第八卷第五號」1923(大正12)年5月号<br>狼「詩歌 第五卷第一號」1915(大正4)年1月号<br>松葉に光る「遍路 第一卷第二號」1915(大正4)年2月号<br>輝やける手「異端 第二卷第一號」1915(大正4)年1月号<br>酢えたる菊「詩歌 第五卷第一號」1915(大正4)年1月号<br>悲しい月夜「地上巡禮 第一卷第四號」1914(大正3)年12月号<br>かなしい薄暮「詩歌 第五卷第一號」1915(大正4)年1月号<br>天路巡歴「異端 第二卷第一號」1915(大正4)年1月号<br>龜「地上巡禮 第二卷第一號」1915(大正4)年1月号<br>白夜「地上巡禮 第二卷第一號」1915(大正4)年1月号<br>巣「地上巡禮 第二卷第二號」1915(大正4)年3月号<br>懺悔「地上巡禮 第二卷第二號」1915(大正4)年3月号<br>夜の酒場「地上巡禮 第一卷第四號」1914(大正3)年12月号<br>月夜「地上巡禮 第一卷第四號」1914(大正3)年12月号<br>見えない兇賊「地上巡禮 第一卷第四號」1914(大正3)年12月号<br>有害なる動物「水壅 第二卷第一號」1915(大正4)年1月号<br>さびしい人格「感情 第二年一月號」1917(大正6)年1月号<br>戀を戀する人「詩歌 第五卷第六號」1915(大正4)年6月号<br>遊泳「詩歌 第四卷第七號」1914(大正3)年7月号<br>瞳孔のある海邊「詩歌 第四卷第七號」1914(大正3)年7月号<br>空に光る「詩歌 第四卷弟六號」1914(大正3)年6月号<br>緑蔭倶樂部「詩歌 第四卷第六號」1914(大正3)年6月号<br>榛名富士「水甕 第二卷第一號」1915(大正4)年1月号<br>吠える犬「詩歌 第五卷第二號」1915(大正4)年2月号<br>柳「詩歌 第五卷第二號」1915(大正4)年2月号<br>Omega の瞳「卓上噴水 第二集」1915(大正4)年4月<br>極光「詩歌 第五卷第二號」1915(大正4)年2月号
入力者kompass
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2005-07-19 / 2018-12-14
長さの目安約 31 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

  詩集の始に

 この詩集には、詩六十篇を納めてある。内十六篇を除いて、他はすべて既刊詩集にないところの、單行本として始めての新版である。
 この詩集は「前篇」と「後篇」の二部に別かれる。前篇は第二詩集「青猫」の選にもれた詩をあつめたもの、後篇は第一詩集「月に吠える」の拾遺と見るべきである。即ち前篇は比較的新しく後篇は最も舊作に屬する。
 要するにこの詩集は私の拾遺詩集である。しかしながらそのことは、必しも内容の無良心や低劣を意味しない。既刊詩集の「選にもれた」のは、むしろ他の別の原因――たとへば他の詩風との不調和や、同想の類似があつて重複するためや、特にその編纂に際して詩稿を失つて居た爲や――である。現に卷初の「蝶を夢む」「腕のある寢臺」「灰色の道」「その襟足は魚である」等の四篇の如きは、當然「青猫」に入れるべくして誤つて落稿したのである。(もし忠實な讀者があつて、此等の數篇を切り拔き「青猫」の一部に張り入れてもらへば至幸である。)とはいへ、中には私として多少の疑案を感じてゐるところの、言はば未解決の習作が混じてゐないわけでもない。むしろさういふのは、一般の讀者の鑑賞的公評にまかせたいのである。
 詩集の銘を「蝶を夢む」といふ。卷頭にある同じ題の詩から取つたのである。

   西暦千九百二十三年
著者
[#改丁]

蝶を夢む 詩集前篇
[#改ページ]

この章に集めた詩は、「月に吠える」以後最近に至るまでの作で「青猫」の選にもれた分である。但し内八篇は「青猫」から再録した。
[#改ページ]

 蝶を夢む

座敷のなかで 大きなあつぼつたい翼をひろげる
蝶のちひさな 醜い顏とその長い觸手と
紙のやうにひろがる あつぼつたいつばさの重みと。
わたしは白い寢床のなかで眼をさましてゐる。
しづかにわたしは夢の記憶をたどらうとする
夢はあはれにさびしい秋の夕べの物語
水のほとりにしづみゆく落日と
しぜんに腐りゆく古き空家にかんするかなしい物語。

夢をみながら わたしは幼な兒のやうに泣いてゐた
たよりのない幼な兒の魂が
空家の庭に生える草むらの中で しめつぽいひきがへるのやうに泣いてゐた。
もつともせつない幼な兒の感情が
とほい水邊のうすらあかりを戀するやうに思はれた
ながいながい時間のあひだ わたしは夢をみて泣いてゐたやうだ。

あたらしい座敷のなかで 蝶が翼をひろげてゐる
白い あつぼつたい 紙のやうな翼をふるはしてゐる。


 腕のある寢臺

綺麗なびらうどで飾られたひとつの寢臺
ふつくりとしてあつたかい寢臺
ああ あこがれ こがれいくたびか夢にまで見た寢臺
私の求めてゐたただひとつの寢臺
この寢臺の上に寢るときはむつくりとしてあつたかい
この寢臺はふたつのびらうどの腕をもつて私を抱く
そこにはたのしい愛の言葉がある
あらゆる生活のよろこびをもつたその大きな…

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