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当世女装一斑
とうせいじょそういっぱん
作品ID3581
著者泉 鏡花
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本の名随筆38 装」 作品社
1985(昭和60)年12月25日
入力者門田裕志
校正者土屋隆
公開 / 更新2008-12-30 / 2014-09-21
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 こゝに先づ一個の裸美人ありと仮定せよ、一代女に記したる、(年紀は十五より十八まで、当世顔は少し丸く、色は薄花桜にして面道具の四つ不足なく揃ひて、目は細きを好まず、眉濃く、鼻の間せはしからず次第高に、口小さく、歯並あら/\として皓く、耳長みあつて縁浅く、身を離れて根まで見透き、額はわざとならず自然の生えどまり、首筋立伸びて後れなしの後髪、手の指はたよわく長みあつて爪薄く、足は八文三分に定め、親指反つて裏すきて、胴間常の人より長く、腰しまりて肉置逞ましからず、尻付豊かに、物腰衣裳つきよく姿に位備はり、心立おとなしく女に定まりし芸優れて、万に昧からず、身に黒子一も無き、)……曲線に依りて成りたちたる一個の物体ありとして、試みに渠が盛装して吾人に見ゆるまでの順序を思へ、彼女は先ず正に沐浴して、其天然の麗質玉の如きを磨くにも左の物品を要するなり、曰、
 手拭、垢擦、炭(ほうの木)、軽石、糠、石鹸、糸瓜。
 これを七ツ道具として別に鶯の糞と烏瓜とこれを糠袋に和して用ふ、然る後、化粧すべし。

     白粉、紅

 の二品あり、別に白粉下といふものあり。さて頭髪には種類多し、一々枚挙に遑あらず、今本式に用ゐるものを

     島田、丸髷

 の二種として、これを結ぶに必要なるは、先づ髷形と髢となり。髢にたぼみの小枕あり。鬢みの、横みの、懸みの、根かもじ、横毛といふあり、ばら毛といふあり。形に御殿形、お初形、歌舞伎形などありと知るべし。次には櫛なり、差櫛、梳櫛、洗櫛、中櫛、鬢掻、毛筋棒いづれも其一を掻くべからず。また、鬢附と梳油と水油とこの三種の油必要なり。他に根懸と手絡あり。元結あり、白元結、黒元結、奴元結、金柑元結、色元結、金元結、文七元結[#「文七元結」は底本では「文六元結」]など皆其類なり。笄、簪は謂ふも更なり、向指、針打、鬢挟、髱挟、当節また前髪留といふもの出来たり。
 恁て島田なり、丸髷なり、よきに従ひて出来あがれば起ちて、まづ、湯具を絡ふ、これを二布といひ脚布といひ女の言葉に湯もじといふ、但し湯巻と混ずべからず、湯巻は別に其ものあるなり。それより肌襦袢、その上に襦袢を着るもの、胴より上が襦袢にて腰から下が蹴出しになる、上下合はせて長襦袢なり、これに半襟の飾を着く、さて其上に下着を着て胴着を着て合着を着て一番上が謂はずとも知れ切つて居る上着なり。帯の下に下〆と、なほ腰帯といふものあり。また帯上と帯留とおまけに扱といふものあり。細腰が纏ふもの数ふれば帯をはじめとして、下紐に至るまで凡そ七条とは驚くべく、これでも解けるから妙なものなり。
 さて先づ帯を〆め果つれば、足袋を穿く下駄を穿く。待て駒下駄を穿かぬ先に忘れたる物多くあり、即ち、紙入、手拭、銀貨入、手提の革鞄、扇となり。まだ/\時計と指環もある。なくてはならざる匂袋、これを忘れてなるものか。頭巾を冠つて肩…

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