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学校友だち
がっこうともだち
作品ID3772
著者芥川 竜之介
文字遣い新字旧仮名
底本 「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」 筑摩書房
1971(昭和46)年6月5日
入力者土屋隆
校正者松永正敏
公開 / 更新2007-07-13 / 2014-09-21
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 これは学校友だちのことと言ふも、学校友だちの全部のことにあらず。只冬夜電燈のもとに原稿紙に向へる時、ふと心に浮かびたる学校友だちのことばかりなり。
 上滝嵬 これは、小学以来の友だちなり。嵬はタカシと訓ず。細君の名は秋菜。秦豊吉、この夫婦を南画的夫婦と言ふ。東京の医科大学を出、今は厦門の何とか病院に在り。人生観上のリアリストなれども、実生活に処する時には必しもさほどリアリストにあらず。西洋の小説にある医者に似たり。子供の名を※[#「さんずい+方」、220-上-12]と言ふ。上滝のお父さんの命名なりと言へば、一風変りたる名を好むは遺伝的趣味の一つなるべし。書は中々巧みなり。歌も句も素人並みに作る。「新内に下見おろせば燈籠かな」の作あり。
 野口真造 これも小学以来の友だちなり。呉服屋大彦の若旦那。但し余り若旦那らしからず。品行方正にして学問好きなり。自宅の門を出る時にも、何か出かたの気に入らざる時にはもう一度家へ引返し、更に出直すと言ふ位なれば、神経質なること想ふべし。小学時代に僕と冒険小説を作る。僕よりもうまかりしかも知れず。
 西川英次郎 中学以来の友だちなり。僕も勿論秀才なれども西川の秀才は僕の比にあらず。東京の農科大学を出、今は鳥取の農林学校に在り。諢名はライオン、或はライ公と言ふ。容貌、栄養不良のライオンに似たるが故なり。中学時代には一しよに英語を勉強し、「猟人日記」、「サツフオ」、「ロスメルスホルム」、「タイイス」の英訳などを読みしを記憶す。その外柔道、水泳等も西川と共に稽古したり。震災の少し前に西洋より帰り、舶来の書を悉焼きたりと言ふ。リアリストと言ふよりもおのづからセンテイメンタリズムを脱せるならん。この間鳥取の柿を貰ふ。お礼にバトラアの本をやる約束をしてまだ送らず。尤も柿の三分の一は渋柿なり。
 中原安太郎 これも中学以来の友だちなり。諢名は狸、されども顔は狸に似ず。性格にも狸と言ふ所なし。西川に伯仲する秀才なれども、世故には西川よりも通ぜるかも知れず。菊池寛の作品の――殊に「父帰る」の愛読者。東京の法科大学を出、三井物産に入り、今は独立の商売人なり。実生活上にも適度のリアリズムを加へたる人道主義者。大金儲したる時には僕に別荘を買つてくれる約束なれど、未だに買つてくれぬ所を見れば、大した収入もなきものと知るべし。
 山本喜誉司 これも中学以来の友だちなり。同時に又姻戚の一人なり。東京の農科大学を出、今は北京の三菱に在り。重大ならざる恋愛上のセンテイメンタリスト。鈴木三重吉、久保田万太郎の愛読者なれども、近頃は余り読まざるべし。風采瀟洒たるにも関らず、存外喧嘩には負けぬ所あり。支那に棉か何か植ゑてゐるよし。
 恒藤恭 これは高等学校以来の友だちなり。旧姓は井川。冷静なる感情家と言ふものあらば、恒藤は正にその一人なり。京都の法科大学を出、其処の…

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