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![]() どうぶつえん |
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作品ID | 3810 |
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著者 | 芥川 竜之介 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」 筑摩書房 1971(昭和46)年6月5日 |
入力者 | 土屋隆 |
校正者 | 松永正敏 |
公開 / 更新 | 2007-07-25 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 8 ページ(500字/頁で計算) |
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象
象よ。キツプリングは昔お前の先祖が、鰐に鼻を啣へられたものだから、未だにお前まで長い鼻をぶら下げて歩いてゐると云つた。が、おれにはどうしても、あいつの云ふ事が信用出来ない。お前の先祖は仏陀御在世の時分、きつとガンヂス河の燈心草の中で、昼寝か何かしてゐたのだ。すると河の泥に隠れてゐた、途方もなく大きな蛭が、その頃はまだ短かつた、お前の先祖の鼻の先へ、吸ひついてしまつたのに違ひない。さもなければお前の鼻が、これ程大きな蛭のやうに、伸びたり縮んだりはしないだらう。象よ。お前は印度の名門の生れだ。どうかおれの云つた通り、あのキツプリングの説などは口から出放題の大法螺だと、先祖の寃を雪ぐ為に、一度でも好いからその鼻をあげて、喇叭のやうな声を轟かせてくれ。
鸛の鳥
あの頸をさ、襟飾のやうに結んでしまつたら、一体あいつはどうしてほどく気なんだらう。
駱駝
お爺さん。もう万年青の御手入はおすみですか。ではまあ一服おやりなさい。おや、あの菖蒲革の莨入は、どこへ忘れて御出でなすつた?
虎
虎よ。お前はコスモポリタンだ。豊干禅師を乗せたお前。和唐内に搏たれたお前。それからウイルヤム・ブレエクの有名な詩に歌はれたお前。虎よ。お前は最大のコスモポリタンだ。
家鴨
子供が黒板へ白墨で悪戯に書いた算用数字。2、2、2、2、2、2。
白孔雀
これは年とつた貴婦人だ。お眼が少し赤く爛れていらつしやる。鼈甲の柄のついた眼鏡を持つて、一々見物人を御覧になれば好い。
大蝙蝠
お前の翼は仁木弾正の鬢だ。面明りの蝋燭位は、一煽りにも消し兼ねない。さうしたら、鼻の尖つた、眼張りの強い、脣をへの字に曲げてゐる顔が、うす暗い雲母摺を後にして、愈気味悪く浮き上るだらう。落款は東洲斎写楽……
カンガルウ
腹の袋の中には子供が一匹はひつてゐる。あれを出してしまつても、まだ英吉利の国旗か何かが、手品のやうに出て来はしないか。
鸚哥
お前は古い唐画の桃の枝に、ぢつと止つてゐるが好い。うつかり羽搏きでもしようものなら、体の絵の具が剥げてしまふから。
猿
猿よ。お前は一体泣いてゐるのか、それとも亦笑つてゐるのか。お前の顔は悲劇の面のやうで、同時に又喜劇の面のやうだ。おれの記憶は縁日の猿芝居へおれを連れて行く。桜の釣板、張子の鐘、それからアセチレン瓦斯の神経質な光。お前は金紙の烏帽子をかぶつて、緋鹿子の振袖をひきずりながら、恐るべく皮肉な白拍子花子の役を勤めてゐる。おれの胸に始めて疑団が萠したのは、正にその白拍子たるお前の顔へ、偶然の一瞥を投げた時だ。お前は一体泣いてゐるのか、それとも亦笑つてゐるのか。猿よ。人間よりもより人間的な猿よ。おれはお前程巧妙なトラジツク…