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![]() こどもにばけたきつね |
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作品ID | 4075 |
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著者 | 野口 雨情 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「定本 野口雨情 第六巻」 未來社 1986(昭和61)年9月25日 |
初出 | 「小学男生」1922(大正11)年8月号 |
入力者 | 林幸雄 |
校正者 | 今井忠夫 |
公開 / 更新 | 2003-12-11 / 2016-02-07 |
長さの目安 | 約 4 ページ(500字/頁で計算) |
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子供に化けて、大人をだます悪い狐がをりました。
三五郎と云ふ百姓が、馬を曳いて帰つて来ますと、道の端に七八つ位の一人の子供が泣いてゐました。
三五郎は、狐が化けてゐるのだと気づきましたから、わざと知らない振りをして通りすぎようとしました。子供は三五郎の方を見い見い余計に泣きました。
どこまでも知らない振りをして三五郎が通つて来ますと、子供は大声をあげて泣き泣き馬の後をついて来ました。
さうするうちに、急に日が暮れて来て、あたりが薄暗くなつてしまひました。まだ日の暮れる筈のないのに、不思議だとは思ひましたが、空にはお星さまさへチラチラ出て、遠くの森で梟の啼く声さへ聞えました。
後から泣き泣きついて来た筈の子供は、こんどは、いつの間にか三五郎の前に立つて泣き泣き歩いてゐました。
『己はちやんと判りきつてゐるのに、知らずにだまさうとする馬鹿な狐だ』と三五郎は心の中で可笑くなりましたが、なにしろ斯う日が暮れて来ては、急いで家へ帰らうと馬に乗りました。さうすると、泣き泣き歩いてゐた子供は、馬の口元をとつて別の方の細い道へ馬を曳き込まうとしました。
三五郎は馬の上で、
『コラコラ道が違ふ。こつちだこつちだ』
と怒鳴りつけましたが、子供は聞えない振りをして、ずんずん細い別な方の道へ曳いて行きました。
三五郎は、もう我慢が出来なくなつて
『この狐め』
と馬からとび下りますと、そこはどぶどぶした泥田の中で、どこまでもどこまでも身体が泥の中へもぐつて行きました。
これは大変だ、どうかしてあがらうと、あせればあせるほどだんだんもぐつてしまひました。やうやく足が届いたと思ふと、そこは、広い広い河原の中でありました。
河原は、まだ日が暮れずに、西の方が夕焼で赤くなつてゐましたが、空の色も、石の色も草も、木も、みんな灰色をした、この世とは、まるつきり違つた国でした。
『一体ここは、なんといふ国だらう、なんといふ広い河原だらう』と三五郎は、あつけにとられてゐますと、向ふの方で大勢の子供が、
父さん恋し
母さん恋し
河原の石は
数限りない
チヨン チヨン
チヨン チヨン
と、童謡を唄ひながら、石を運んでは積み、運んでは積み、一生懸命に石を積んでゐました。三五郎は子供達のそばへ行つて。
『モシモシここはなんといふ国だか教へておくれ』
とたづねますと、子供達は口々に、
『小父さん、ここは三途の河原よ』
と云ひました。
三途の河原と聞いて三五郎はびつくりしてしまひました。
『己は、たうとう死んでしまつた、なんといふ情ないことになつただらう。道理で今までの世の中とはまるつきり違つてゐる、どうしたらいいだらう』
と悲しくなつて考へてゐますと、子供達は、
『小父さん赤鬼が来るよ。目つかつてごらん、ひどい目に逢ふから。早くどつかへ隠れておいで』
と親切に云つてくれました。三…