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仲のわるい姉妹
なかのわるいきょうだい
作品ID4077
著者野口 雨情
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 野口雨情 第六巻」 未來社
1986(昭和61)年9月25日
初出「小学女生」1921(大正10)年8月号
入力者林幸雄
校正者今井忠夫
公開 / 更新2003-12-10 / 2016-02-07
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある村に、お杉とお紺と云ふ仲の悪い二人の姉妹がありました。お母さんは、二人の仲がよくなるやうにと、いつも、心配をしてをりました。
 ある晩方、つひ見たことのない、七八つ位のお芥子坊主が庭へ来て、

姉のお杉 妹のお紺
仲が悪くば 山の神様の
椋鳥さまに お頼みなされ

と、山の方を指さし指さし謡つてをりました。お母さんは、不思議に思つて、庭に出て行きますと、お芥子坊主は裏の橋を渡つて逃げて行つてしまひました。お芥子坊主は、その次の晩方も、次の次の晩方も、同じやうに庭へ来て謡ひました。お母さんが出て行くと、いつも橋を渡つて逃げてゆくのでした。
 お母さんは、山の神様をおたづねして行けと云ふ意味の唄だと知りました。ある日、二人の姉妹をつれて山の神様をたづねて山へまゐりました。
 一番高い山の上まで行きますと、山の神様は、木の根へ腰をかけて、長い真白な髭を撫でながらおゐでになりました。
 お母さんと二人の姉妹の顔を見ると、すぐ、山の神様は、
『よしよし、判つた。椋鳥椋鳥』とおつしやつて、とんとんと杖で地面をおたたきになりますと、椋鳥が飛んでまゐりました。
『椋鳥、お前の国へこの姉妹をつれて行くのぢや。』
『かしこまりました』と椋鳥は、二人の姉妹に白い布で目隠しをして、大な椋の木の空洞の前へつれてゆきました。
『この中に一本道があるから、何んにも考へずに、真直に歩いて行くんだよ』と二人の姉妹を空洞の中へいれて入口の戸をガチンと締めてしまひました。
 二人は、真暗い空洞の中の一本道を椋鳥に云はれたやうに歩いて行きました。もう一里も来たと思ふ頃、そつと目隠しをとつて見ますと、そこは広い広い野原でありました。野原の中には、自分と同じ歳位の子供がそつちにもこつちにも立つてをりました。
 姉のお杉は、一人の子供に、
『今日は』と云ひましたが、その子供は、石地蔵さんのやうに黙つてをりました。聞えないのか知らと、
『今日は、今日は』と大な声で続けざまに幾度も云ひましたが、やつぱり黙つて返事をしませんでした。今度は一人一人、
『今日は、今日は。』
『遊びませう、遊びませう。』
と云つて歩きましたが、誰一人相手になつてくれてがありませんでした。
 妹のお紺も、
『今日は、今日は。』
『遊ばせて下さい。』
と云って歩きましたが、皆な聞えない振りをして、後を向いてしまひました。
 仲の悪い二人の姉妹は、ひとりぼつちになつて、ぽかんとして見てをりますと、向ふの丘の上に、大勢の子供達が手をとり合つて楽しさうに遊んでをりました。姉のお杉は、そこへ行つて仲間に入れて貰はうと、丘の下までゆきました。妹のお紺も、一緒に遊ばせて貰はうと、丘の下までゆきましたが、二人は足がすくんで、いくら一生懸命になつても、丘の上へあがれませんでした。

姉と生れて 妹となつて
仲が悪くて 椋鳥さんに
暗い一本道 送…

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