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じだいしょく
作品ID4540
副題――歪んだポーズ
――ゆがんだポーズ
著者岡本 かの子
文字遣い新字新仮名
底本 「愛よ、愛」 パサージュ叢書、メタローグ
1999(平成11)年5月8日
入力者門田裕志
校正者土屋隆
公開 / 更新2004-04-27 / 2014-09-18
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 センチメンタルな気風はセンチと呼んで唾棄軽蔑されるようになったが、世上一般にロマンチックな気持ちには随分憧れを持ち、この傾向は追々強くなりそうである。
 飛躍する気持になり度い。何物かに酔うて恍惚とした情熱にわれを忘れたい。大体こういう気風である。だが、世上一般の実状はその反対を強ている。それだけ人々は却てそれを欲っするのかも知れない。
 世上一般の実状が人々に強いるものはリアリズムである。如何に苦しく醜い現実でも青眼に直視せよと言うのである。然らざれば生活の足を踏み滑らす。
 リアリズムの用心深い足取りで生活の架け橋を拾い踏み渡りながら、眼は高い蒼空の雲に見惚れようとする。歪んだポーズである。此矛盾が不思議な調子で時代を彩色る。
 純情な恋の小唄を好んで口誦む青年子女に訊いてみると恋愛なんか可笑しくって出来ないと言う。家庭に退屈した若い良人が、ダンス場やカフェ這入りを定期的にして、而もそれに満足もしない。肯定と否定とが一人の人の中に同棲している。そして、そのような矛盾のままで性格が固定し切っているかと思えば、そうでない。気分の動きにつれて肯定と否定の両頭は直ぐ噛み合いを始める。今日の都会の青年子女に就て、気持ちの話になって、はっきり一つの意味の言葉を言切る者は尠い。必ず意味に濁りを打つか取消しの準備を言内に付け加えている。これは相手に向っての用心ばかりでなく、恐らく自分自身に向っても保証し切れないからであろう。
 しかし、この矛盾に堪えぬものは現代の落伍者である。逞しい忍耐を以て、この歪んだポーズに堪え、根気よく真に魅力ある理想を探って行き度い。



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