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聞きたるまゝ
ききたるまま
作品ID4591
著者泉 鏡花
文字遣い旧字旧仮名
底本 「鏡花全集 巻二十七」 岩波書店
1942(昭和17)年10月20日第1刷
入力者門田裕志
校正者土屋隆
公開 / 更新2007-05-07 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 吾聞く、東坡が洗兒詩に、人皆養子望聰明。我被聰明誤一生。孩兒愚且魯、無災無難到公卿。
 又李白の子を祝する句に曰く、揚杯祝願無他語、謹勿頑愚似汝爺矣。家庭先生以て如何となす?
 吾聞く、昔は呉道子、地獄變相の圖を作る。成都の人、一度是を見るや咸く戰寒して罪を懼れ、福を修せざるなく、ために牛肉賣れず、魚乾く。
 漢の桓帝の時、劉褒、雲漢の圖を畫く、見るもの暑を覺ゆ。又北風の圖を畫く、見るもの寒を覺ゆ。
 呉の孫權、或時、曹再興をして屏風に畫かしむ、畫伯筆を取つて誤つて落して素きに點打つ。因つてごまかして、蠅となす、孫權其の眞なることを疑うて手を以て彈いて姫を顧みて笑ふといへり。王右丞が詩に、屏風誤點惑孫郎。團扇草書輕内史。
 吾聞く、魏の明帝、洛水に遊べる事あり。波蒼くして白獺あり。妖婦の浴するが如く美にして愛す可し。人の至るを見るや、心ある如くして直ちに潛る。帝頻に再び見んことを欲して終に如何ともすること能はず。侍中進んで曰く、獺や鯔魚を嗜む、猫にまたゝびと承る。臣願くは是を能くせんと、板に畫いて兩生の鯔魚を躍らし、岸に懸けて水を窺ふ。未だ數分ならざるに、群獺忽ち競逐うて、勢死を避けず、執得て輙獻ず。鯔魚を畫くものは徐景山也。
 劉填が妹は陽王の妃なり。陽王誅せられて後追慕哀傷して疾となる。婦人の此疾古より癒ゆること難し。時に殷※[#「くさかんむり/倩」、58-7]善く畫く、就中人の面を寫すに長ず。劉填密に計を案じ、※[#「くさかんむり/倩」、58-7]に命じて鏡中雙鸞の圖を造らしむ、圖する處は、陽王其の寵姫の肩を抱き、頬を相合せて、二人ニヤ/\として將に寢ねんと欲するが如きもの。舌たるくして面を向くべからず。取つて以て乳媼をして妹妃に見せしむ。妃、嬌嫉火の如く、罵つて云く、えゝ最うどうしようねと、病癒えたりと云ふ。敢て説あることなし、吾聞くのみ。
明治四十年二月



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