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競馬興行と競馬狂の話
けいばこうぎょうとけいばきょうのはなし
作品ID47066
著者桂 小南
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本の名随筆 別巻80 競馬」 作品社
1997(平成9)年10月25日
初出「グロテスク」1929(昭和4)年9月号
入力者浦山敦子
校正者noriko saito
公開 / 更新2008-08-17 / 2014-09-21
長さの目安約 17 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 スピードの世の中であります。此意味に於て、競馬は最も今日高速度的世相の推移を如実に表示するものであらうかと思はれます。私が年末、大の競馬狂として之に没頭しますのも、さうした点に興味を持つからでありますが、執着の結果は春秋の競馬シーズンを待ち兼ねてどうか是が同一の興趣と実感とを室内に於て味ふ工夫もがなと、好きには身を窶すで、日夜専心専一苦心を致しました。所が思ふ念力岩をも通す譬にて、私の顔よりも馬の顔よりももつと長い間の苦心が首尾好く今日に酬ひられまして、漸く斯の如き室内競馬と銘売つたる高級遊戯セツトの発明に成功しまして、只今新案特許も出願中でございます。此セツトは普通の競馬組織を双手で提げ得るだけの小函の中に圧搾したものでありまして、僅か五六米の長さの御座敷ならば自由にゲーム・レースは出来るのであります。而も模型の馬匹と騎手がスタートを切つて、凡そ一分内外に決勝点に入る迄一弛一張、其何れが先着を占むるかを予断し兼ねる所に、実際のレースと少しも変らぬ所の感興が湧くのであります。尚ほ、それのみならず、一定の動力を以てして各馬匹に一定の速度を与へ、レース毎に勝馬の見込みを異にするやうに装置しましたのも、特別の入念を要した点であります。されば各御家庭は勿論、クラブ、ホテル、集会場、カフエ等々に御備附して、春の朝の悦楽にも秋の夕の清娯にも、どれほど似附かはしいか知れませぬ。或は遠洋近海航行の汽船内にありましては、御船客の新しい娯楽として到底デツキ、ゴルフなどの比ではなからうかと存じます。どうか私の此図体相応の大きな苦心と、量見相応の小さな発明とに御声援を願ひます。
 私が大阪から東京へ来たのが明治三十八年でした。其当座競馬の馬券は一枚十円で、穴が出れば今のやうな十倍の制限でなく幾らでも取り次第と云ふ遣りやうでありました。私が初めて競馬に行つたのは横浜の新富亭と云ふ寄席の主任をやつて居つて、根岸に競馬があると聞いて、丸切り分らぬのにぶら/\と行つて、行成、驚いたのが入場料五円で一寸辟易したが仕方がないので奮発して這入つた。さあ皆、馬券を買ふてどれだけ取られたと騒いで居るが一向勝手が分らぬ、それから出鱈目に殆ど見徳のやうな工合に馬券を買ふて見た。一向に当らぬ、何でも八競馬か九競馬目位に矢張り見徳で買ふた馬、確か番号は五やつたと思ふ。見事に端の切つ放しで第一着に這入つて呉れた、是が私の競馬に這入り始めで成程面白いと云ふ事を感じた。さあ少なくも十円が五六十円若くは百円位になつたであらうと喜んで、払戻口へ行くと、十円五十銭の札が掛つて、詰り五十銭より儲けがなかった。結局其日は百円ばかり損して帰つた。それが病附で、其明くる日には連中一同計つて新富亭の木戸上り五十円で天切をして、是で馬券を買ふ事に協議の結果定まつて、で共同金の五十円を以て矢張殆ど見徳のやうな工合で順々に五枚買ふた…

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