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語部と叙事詩と
かたりべとじょじしと
作品ID47179
著者折口 信夫
文字遣い新字旧仮名
底本 「折口信夫全集 4」 中央公論社
1995(平成7)年5月10日
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2009-12-11 / 2014-09-21
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

私は、語部の職掌及び、其伝承した叙事詩の存在した事を、十数年以来主張して来た。語部が、対話として散文的に古い説話を記憶して、話し聞かした事だけは、反対する人もなかつたが、その伝承の対象が叙事詩の形を持つて居り、其を暗誦したり、聞かしたりするのは、ある節まはしで謡うたものだといふ点には、反対する人が、陰に陽にかなりあつた。私の考へはじめは、「かたる」といふ語の用語例から出発して、万葉集その他のかたるの意義を検べた辺から出て居る。其れに自信を添へる事の出来る様になつたのは、金田一京助先生が、年々夏には、「北海道あいぬ」を調査に行かれて、所謂「蝦夷浄瑠璃」の採集から、驚くべき分量の詞曲・神曲(同先生の用語)のある事を発見せられた旅行の土産話を、先生の口づから聴かして頂いた時からである。この先生から得た学問上の得分は沢山あるが、語部に対する暗示は、この章のはじめに記して、深い御礼心を表したい。それと共に、此章が、その下された暗示から成長して、ともかくも古代生活の大きな一方面に探りだけでも入れる事の出来た業蹟を見て頂いて、行供養の微意をお目にかけようと思ふのである。
語部の伝承が、叙事詩は勿論曲節もないとする人は今もある。人によると語部の職掌が、説話伝承でなかつたとまで言ふ向きもあつた。其等の人の考へに対しては、此章自身が適当な返事となる事と信じて、一々は論じない。
生活条件を同じくした村も異にした村もあつて、其が引き続いて前期王朝に及んだとすると、勿論習俗の同化したのもあり、頑固に他の村国の影響を拒んだ村国もあつたであらう。而も、ある部分づゝは次第に風化せられたものと見てよい。併し、語部なる職業団体を初めから――常識的に言うて――持つて居た村国と其をまねた村国と、さうした部曲を置かずにとほした地方とがあつたと考へるが正しい。こゝには、語部のない村国は考へる事が出来ないから、第一次的第二次的、いづれにせよ、此団体組織の備つて居た土地に就いてばかり論じる。が、自然国中全体に此組織が行はれて居たものと言つた表し方をとることがあるかも知れない。けれどもどこまでも、此を持たなかつた村国は問題の外になつて居るものと見てほしい。
語部の事を説く前に、叙事詩の発生を言ふ必要がある。
「よごと」の章に述べた様に、よごとの中に、祝福風の発想と、圧服式の表現とがある。とこよのまれびとが名のりによつて、土地の精霊の名のりを促す形の一つ前の姿は、まれびと自身の種姓を名のつて地霊を脅かす方法と、地霊の種姓を、こちらから暴露する為方とがあつた。種姓明しが呪言としての威力発揮の一つの手段であつたのが、段々分化して種姓明しの口頭文章の内容が、歴史観念を邑々の人の心に栽ゑつける。而も呪言としての利用尠くなつた文章にも、やはり勿論神言の威力は存在したので、叙事詩が純粋の歴史伝承ととり扱はれる様になつた時…

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