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日本芸能の話
にほんげいのうのはなし
著者折口 信夫
文字遣い新字旧仮名
底本 「折口信夫全集 21」 中央公論社
1996(平成8)年11月10日
初出「芸能 第九巻第六号」1943(昭和18)年6月
入力者門田裕志
校正者植松健伍
公開 / 更新2020-02-11 / 2020-01-24
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

一 芸能といふことばの発生

お互ひにおめでたうございます。どうぞこの上とも皆さんのお力をもちまして、この会の目的が達成せられますやうに、また努めて行きますうちに、だん/\新しいよい目的を発見して、展開して行く、それもだん/\遂げて行きますには、皆さんのお力をお借りしたいと申す外はございません。
芸能といふことにつきましては、皆さんにいろ/\なお考へもおありでせうが、大体に於て、シナで使つて居りました芸能といふ意味と、日本で使つて居ります芸能といふ意味とは、非常に違つて居りますので、只今文部省なんかで使ひ初めました芸能といふのは、全くシナの意味の芸能といふ用語例に沿うてゐるものです。日本の芸能といふ語は恐らく平安朝の末頃から慥かに現れて来るのだと思ひます。それもとび/\に現れて参ります。御存じのことでせうが、能といふのは下に心といふ字がついた態といふ字の略字が能といふ字になりまして、それが終ひには、発音までのうといふやうになつて来たのです。もとは芸態といふ風に書いてをるのであります。その態、即能といふのは物真似といふ意味です。即、芸と態とを併せて芸能といふのですから、非常にいろ/\なものを道々含んで来まして、吉野朝時代に出ました下学集を見ますと、態芸門といふやうな部類が出来てゐます。
尤、その態芸門つまり芸能門には初めは芸能といふ語が使用されてをりますが、分類が不正確でございまして、皇室に関することだとか、政治家に関することなども、この態芸門に這入つて来るやうな雑然とした分類の為方なのですが、大体田楽だとか、簓だとか、猿楽などといふやうな語が這入つてをるので、吾々の考へてゐる芸能と同じものだと考へてもよいと思ひます。
この芸能といふものは芸術として扱はれる範囲のものでない、まう少し違つた位置にある、吾々がいま芸能と言うてゐるものゝ部類に当るのだと思ひます。つまり、音楽だとか、演劇だとか、歌謡だとか、さういふものを引括めて、まう少し大衆が見て楽しむことの出来るやうなものを芸能と言うてゐるやうであります。

二 二つの使ひ方について

吾々は今ではこの芸能といふことを少し高い意味にも使つて居りますやうで、昔の意味よりは自然範囲も拡つてゐるやうに思ひますけれども、もとは右のやうになつてゐるのでありますから、さういふ意味で芸能といふ語を使つて行つてもよからうと思ひます。これは全く芸能といふ語が自然に口から口へずつと生きて来たのではなくて、或時代には芸能といふ語が消えてしまつて居りますが、近年になつてまた芸能といふ語が復活して参りました。
これについて文部省風の芸能科などといふ芸能といふ語も出来て来ました。そこでここに意味のちがつた芸能が二つある訣になるのです。情報局あたりでは吾々の考へ方に沿うて、「芸能」といふ語を使つてゐられるやうであります。
結局、吾々の学会で申…

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