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根子の番楽・金砂の田楽
ねっこのばんがく・かなさのでんがく
作品ID47717
著者折口 信夫
文字遣い新字旧仮名
底本 「折口信夫全集 21」 中央公論社
1996(平成8)年11月10日
初出「日本民俗 第四・五号」1935(昭和10)年11・12月
入力者門田裕志
校正者フクポー
公開 / 更新2019-04-27 / 2019-03-29
長さの目安約 17 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

今度秋田県北秋田郡荒瀬村根子といふ山の中の村から、番楽といふものが来る。番楽といふのは、奥州のあちらこちらにあるので、多く此字をあてゝゐるが、この字が当るかどうか訣らぬ。何かの参考になる様なお話をしよう。

東北の芸能

日本の舞踊には、人間の性とか年齢とかによつて異るといふ規則がある。つまり、老人の舞ひ・処女の舞ひ・青年の舞ひと、此三つが、祭りの時に行ふ舞踊の重要な要素になつてゐるので、根子の番楽は、青年の舞ひが中心になつてゐる。併し、其中に青年のもの以外に独立してゐる舞ひもあるやうだ。尤、或部分は青年がするが、元から皆青年がしたとは言へない。
此は、出羽奥州に通じて行はれてゐる神楽系統の芸能の一つである。出羽奥州に行はれてゐる神楽といふものは、果して正確に、我々の考へてゐる神楽と言つていゝかどうかは問題だが、彼方では、凡そ神楽と言つてゐる。だが、神主・禰宜の神楽と、山伏の神楽とに、大体分れてゐる。ひつくるめて言へば神楽と言へるが、地方によつて、名が変り、同時に分裂してゐて、其地方特有の祭礼の歴史と結び付いたりもして、部分々々が残つてゐるといふ形になつてゐるのである。併し、此他に、出羽奥州を通じて、別系のものが無かつたとは言へない。別系のものがあつたのが、大きな神楽が這入つて来た為に、其中に取り込まれて了うた、と見た方がいゝのかも知れない。とにかく、簡単なものではなからう。
東北の神楽系統の芸能で、番楽といふ名をもつてゐるのは、凡そ翁・三番叟であるらしい。こゝの舞ひには、裏舞ひといふものがある。其に対して、元のものを表舞ひといふ。中央から西にかけて、古い芸を留めてゐるものが、もどきを持つてゐるのと同じだ。併しもどきよりはまう一層形のきまつたもので、もどきは、形が極つても即興的な意味をもつてゐるが、裏舞ひとなると、表舞ひと同じく固定して了つたものと思はれる。
不思議なことには、出羽奥州を通じて、部分々々に、偶然とは思へぬ一致がある。殊に曲目に於いて著しい。今度来る番楽の主体になつてゐる翁・三番叟にも、「松迎へ」の翁といふ裏舞ひがくつゝいてゐる。此は、奥州のにも段々ある。早池峯系統の神楽にもある。つまり、日本国中の神楽、或は其他の神事舞ひが、すべて翁・三番叟で統一された。其と同じ理窟で、此等のものが翁・三番叟をもつてゐるのだらう。

能楽・幸若舞との類似点

が、此翁・三番叟よりも主な処は、若い衆の舞ひだけに、能でいへば四番目物である現在物と、殆、同じ様なものが沢山ある。此が、この番楽の本態のやうに見える。此らのものを観た人は、率然として感じるだらう。此は、能楽の出羽奥州に残つた変型だと。併し、さう感じるのは、曲の内容だけで、台本もちがへば、所作に到つては非常にちがふ。何の通ずる処もない様に思はれる。が、今の能楽が古からあのまゝではなかつた筈だ。能の台本即、謡…

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