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ほたる
作品ID47983
著者上村 松園
文字遣い新字旧仮名
底本 「青眉抄その後」 求龍堂
1986(昭和61)年1月15日
初出「帝国絵画宝典」1918(大正7)年7月
入力者鈴木厚司
校正者川山隆
公開 / 更新2008-07-09 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 この図を描くに至つた動機と云ふやうな事もありませんが曾て妾は一茶の句であつたか蕪村の句であつたか、それはよく覚えませんが、蚊帳の句を読んで面白いと思つて居りました。併しそれを別に画にして見たいと云ふ程の考へもなく過ぎました。
 夏の頃フト蚊帳の記憶を喚び起して、蚊帳に螢を配したならば面白かろうと思ひ付いたのが此画を製作するに至りました径路でした。
 併し唯螢では甚だ引立ちませんから、美人を主にしたので云ふまでもなくこの図は美人が蚊帳を吊りかけて居る処へ夕風に吹き込まれてフイと螢が飛び込んだのを、フト見つけた処です。
 蚊帳に美人と云ふと聞くからに艶かしい感じを起させるものですが、それを高尚にすらりと描いて見たいと思つたのが此図を企てた主眼でした。良家の婦人を表したのです。時代は天明の少し古い処で、その頃の浴衣を着て、是から寝まうとする処ですから、細い帯を横に結んで居ます。
 時が夕景のものであるから成るべく涼しげな感じを起させることに努めました。水のやうな青い蚊帳と服装の配合も凡て此涼しげと云ふのが元になつて居ります。この涼味を表すと同時に下品に陥らぬ様に注意したので模様なども成るべく上品なものを選びました。
 服装の模様などは別に拠り所も何もありません。唯多く其時代に使はれて居さうなものを描いて見たまでです。要するにこの図はともすれば、廓の情調でも思ひ出させさうな題材を捉へて却つて反対に楚々たる清い感じをそそる様に、さらさらと描いたものです。
(大正七年)



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