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枯草
かれくさ
作品ID48372
著者野口 雨情
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 野口雨情 第一巻」 未来社
1985(昭和60)年11月20日
初出村の平和「労働世界」1902(明治35)年7月3日、鬼のお主「常総新聞」1905(明治38)年1月1日、花壇の春「暗潮」1903(明治36)年9月
入力者川山隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2010-05-02 / 2014-09-21
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの左右中央]


  花も実もなき枯草の一篇わが親愛なる諸兄に捧ぐ


[#改ページ]

毒も罪も

草に咲くさへ
毒の花
罪の花みな
紅からむ

羽うるはしき
例の童が
罪の矢ならば
美しかろ

唇にふれなば
倒るべき
毒の花なら
甘からむ


村の平和

雲の香沈む有明の
月の森よりそと出でて
麦の緑の岡に立ち
見るよ平和の村の朝

霞の中に黄金色の
菜種の花は咲きにしが
葦の芽に降る春雨の
そそぐ韻も聞きにしが

麦の葉に吹く曙の
風は東にそよそよと
朝の香深き岡なれば
夢美しく眠るらむ

平和の村は有明の
み空に懸る雲の幕
雲の幕よりほころびて
草に甘露の霧が降る


佐渡が島

瞳を上げよ寂しくも
雲にまぎるる島山の
森にぞ秋は浮びたる

入江に満つる海の香も
思ひか迷ふ金色の
夕日ただよふ波の上

さても静けき潮さゐに
海の日暮れて紫の
雲が流るる佐渡が島

舟ぢや女ぢや腕細ぢや
それでは波が関の戸の
佐渡は四十九里沖の島


籠に飼はれし鶯に

桃の花咲く山寺の
籠に飼れし鶯に
仔細と申し聞すべく
したり貌なる猫の子よ

それは去年の春の事
花は霞にこめられて
桜が匂ふ曙の
帳薫ずる花の山

うれしき春の終日を
歓び叫ぶ百鳥の
真珠ころがす汝が声に
ききまどふこそ楽けれ

その日ゆ永き日月を
花の冠の鳥の子と
流転の玉のなが声は
永久の春に響くめり

己がのぞみをみだすべく
したたか者の猫の子は
籠に飼れし鶯に
仔細と申し語るらく


鬼のお主

さつさ行きませう
あの山越えりや
淀の流が
花ざかり

桜は咲けど故郷の
月は朧に川しぶき
花は咲けどもちりちりに
淀の川瀬の水車

姉はよけれど妹に
鬼のお主の杢兵衛さん
とても暇はくださらず
それでお主と申すより

さつさ行きませう
あの山越えて
淀は故郷
花の里


百舌子

手をこまぬきて逍遙の
牛の牧場に日は暮れぬ
夕の声の譜に合はず
林の中にひびきあり

松の林のあちこちに
耳傾けて佇めば
そは鵙の子のたはぶれて
小鳥の音を鳴く狡猾者よ

汝は野の鳥山の鳥
野の朝山の夕間暮
小鳥を覗ふ蛇の子の
げに横着者よ鵙の子よ


花壇の春

土やはらかく耕して
千草の種を培へば
春風いまだ吹かぬ間に
芽こそ細くも萠ゑにたれ

やがて春風そよそよと
吹けば真昼の日もゆるく
夕となれば白露の
清き匂も満ち渡る

月を重ぬるはや三月
日に日に草ははぐまれて
葉ゆらぐ陰にさまざまの
小き蕾も見ゆるかな

ある夜春雨草の葉の
緑いろよくそそぎしが
あくるあしたの夕より
つぼみは花と咲きにたり

花壇の土の美しく
今こそ花は開きたれ
春の日燃ゆる炎陽に
花の露の香ゆふべも消ゑじ


恋の娘は何誰でござる

お竹お十七
暮の春
泣いて別れた
事もあろ

三十九でさへ花ぢやもの
お十七ではまだ蕾
花の蕾の…

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