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衰えてきた日本料理は救わねばならぬ
おとろえてきたにほんりょうりはすくわねばならぬ
作品ID49964
著者北大路 魯山人
文字遣い新字新仮名
底本 「魯山人の美食手帖」 グルメ文庫、角川春樹事務所
2008(平成20)年4月18日
初出「星岡」1933(昭和8)年
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2010-01-20 / 2014-09-21
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 講演会なんかといいますと、学校の仕事みたいでなんだかけちくさくおもしろくありませんから、講演会なんかといわないで、膝つき合わせて皆様もわたしも語るという会にいたしましょう。
 まず、それについても、料理というものの概念がないと、とにかくあてずっぽうで、でたらめの仕事に陥りますし、しかも、楽しんで食べるということにもなりませんから、根本的概念を作りましょう。それには実習と説明を同時にやると、いちばん効果的でありますが、最初一通り概念を話して、その後に皆様とごいっしょに、心安く雑談をして、基礎を作りましょう。
 わたしは、この会について、はじめ二十人か三十人でないといけないと思いましたが、心安いお方が多く、ぜひわたしも入れてくれとのことで、仕方がなく、ともかく一応そうした方にも来ていただくことになりました。
 かかる多人数を前にして、いかにして皆様にご満足を与えたらよかろうかと考えました結果、それには、皆様の実習を分類して、きゅうりをいかに切り盛りするとか、なすをいかに煮るとか、貰ったあゆをいかに処理するとか、仕事を区別し場所を別々にして、皆様のご相談相手を致したいと思うのであります。そして若い方には、切り盛りの仕方からお教えしたいと思います。中には上手な方もおありだろうと思いますから、そうした方はわたしの助手としてお手伝いくだすって、ごいっしょに相談し合ってやりたいと存じます。
 それでは、おもしろくないから止そうというひとがあるかもしれないし、また、それでもよいと思って留まる方もあるだろうと思います。
 わたしどもが料理を致しますのは、うまい料理、体裁のよい料理をして、立派な腕前をひとに見せたいとかいう、そうした理性的な考えでなく、料理が趣味で好きで好きでしないではおられないという非常な楽しみごととしてやっております。
 皆様もご承知の明治の元勲井上侯爵は、晩年まで自分で台所に出られ、七輪をあおいで料理をやられました。鈴木馨六というお婿さんなんかは、七輪を、あおがせられるので悲鳴をあげたそうです。井上さんは、料理を料理人に任せてはおられない、自分でしないと気がすまない方でありました。それがために、どうも料理人のしたことでは満足出来ないと見えまして、自分自身で台所をやられたそうです。そのため、井上侯を今日より考えてみると、まったく余人に求められない人間味があるように思えます。そこに人間としてのおもしろさが閃めいているように思えて、なにかいい感じがし、親しみを感じます。
 その点で料理を心がけるようなひとは、どうしても料理を好きにならなければならない。第一好きでないと長つづきしない。好きでなければ面倒くさくなり、おもしろくなくなって結局仕事が付焼刃になります。要するにうまい料理は出来ないことになります。
 それには料理上の概念を修めないと、先刻申したように、う…

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