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塩昆布の茶漬け
しおこぶのちゃづけ |
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作品ID | 49980 |
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著者 | 北大路 魯山人 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「魯山人の食卓」 グルメ文庫、角川春樹事務所 2004(平成16)年10月18日 |
初出 | 「星岡」1932(昭和7)年 |
入力者 | 門田裕志 |
校正者 | 仙酔ゑびす |
公開 / 更新 | 2010-02-02 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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私の語るのは、ことわるまでもなく趣味の茶漬けで、安物の実用茶漬けではない。そのつもりで考えていただきたい。
とは申しても、もともと昆布のことであるから、さして高価なものではない。ところで塩昆布だが、そこいらに売っているものでは、まず駄目だ。所詮、昆布がよくて、これを煮る醤油がよくなくては駄目なので、この点、売りものの仕入れ品などは適当でない。
この昆布は京都の松島屋、東京ならば築地魚河岸の特産店、日本橋室町の山城屋とかが取り扱っているものだ。つまり、だし昆布の上等でなくては駄目なのである。京都には、こういう店はいくらもある。
醤油はヤマサくらいでよいだろう。また、塩味の好きな人は醤油に塩を加えるのもよかろう。塩を加えた昆布の佃煮は、塩でじゃきじゃきする。それまで煮つめるのが美味しい煮方である。しかし、直火ではなく、湯煎で煮つめるのである。一段と美味く煮るのには、醤油一升を使うとしたら、その中に酒を三合ほど入れるがいい。酒のおかげで美味い塩昆布になる。煮た塩昆布をそのまま茶漬けにするのも、もとより異存はないが、山椒の好きな人は、山椒の実の若くやわらかい時に、昆布といっしょに煮るといい。あるいは唐辛子などを入れるのもいい。または関西ものの「ちりめんじゃこ」をいっしょに煮るのもいい。雑魚という原料の相違によって、東京のは例え昆布がよくても問題にならない。雑魚と昆布と煮たものは、さかなの味と植物の味の関係でなかなか美味い。ただし、この場合の雑魚は小さなのを選ぶべきである。要するに、前述のどれでもいいが、例のごとく飯の上にのせて、煎茶のよいのをかけて茶漬けとする。
茶漬けは、なにもかもが口に不味い時、例えば盛夏のように食の進まぬ時、もっとも適当な美食として働く。塩昆布などで茶漬けをやる時は、沢庵漬けなど、むしろない方がいい。