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雑煮
ぞうに |
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作品ID | 49985 |
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著者 | 北大路 魯山人 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「魯山人の美食手帖」 グルメ文庫、角川春樹事務所 2008(平成20)年4月18日 |
初出 | 「星岡」1934(昭和9)年 |
入力者 | 門田裕志 |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2010-01-01 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 3 ページ(500字/頁で計算) |
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季節にちなんで、お雑煮の話をしたいと思う。
いったいお雑煮は、子供の時分から食べ慣れた故郷の地方色あるやり方が、いちばん趣味的で意義がある。
主婦の心がけ次第で、第一日は地方色豊かなお国風雑煮、二日目からは東京風の贅沢な、賑わいのある楽しいもの、というようにすれば、家族に喜ばれること請け合いだ。
かといって、強いてそうせねばならぬという理由はないのだから、各自の好みに任せてよい、とまずご承知おき願いたい。
わたしの経験からいうと、雑煮の中を賑々しくするためには、にんじんとか、だいこん、いもなどを入れる方がよいだろう。いもなども、原形のままの方が野趣があっておもしろい。なにか変わった趣を添えたいような場合には、いもに角目を立てて削るのも悪くない。が、あまり細工をせずに作る方がよいと思う。
だしは普通のかつおぶしだけでとるか、あるいは昆布だしにするのもよろしい。また、冬になると、焼きはぜなどよく贈られる家庭もあろうが、焼きはぜをだしに用いると、特殊の風味が出て楽しめる。
さて、いちばん肝要なのは、餅の焼き方である。昔から狐色に焼くのを最上としておったようだが、ところどころ濃く、ところどころ狐色に丁度鼈甲の斑を思わせるように焼くのが理想的である。そして、餅の堅い、やわらかいの程度によって、火の加減をしないと、中身が堅いのに表面ばかり焦げたり、白くしなしなしてしまったりする。
雑煮のコツは、餅の焼き方にあるといってよいと思う。また、不細工に大きな餅のはいっているのはおもしろくない。ことに朝から屠蘇機嫌でいるところへ大きいのを出すのは気が利かない。
料理屋で出す小型マッチ箱ぐらいの大きさが、見た目の感じがよい。でも、客次第で餅の大きさも加減したらよい。若い者たちには多少体裁が不格好でも、大きいのを入れた方が歓迎されよう。出す相手と場合に応じて、それ相応のもてなしをすることは、単に雑煮だけにかぎらず、何事においても必須条件である。
白味噌の雑煮なども、変わっていてうまいものである。それから、のりは良質のもの――焼きのりでもよい――を、細かく揉んでかける。四角に切ったのを、一枚のせたりするのは感心しない。
しかし、のりというものは、なかなかむずかしく、焼き方にコツがある。
現に、京阪などでは、生で使っている。それは別として、うまく焼けたものは、たいへんうまいものである。
京阪のような大都会でさえ、のりの焼き方を知らないのであるから、いわんや地方ではいうをまたない。東京といっても、地方の人が大部分で、存分なのりの焼き方のできるひとは稀なことであろう。百円ののりを五十円ぐらいに下落させて食べているのが大部分である。
要するに、雑煮はあり合わせで、見つくろって出せばよいのだ、ということを会得していただければ結構なのである。